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耐久性の高い住宅外皮とは──。独自の工夫で取り組む住宅会社に聞いた。材料選びの視点や下地材を長持ちさせる仕様、サッシを交換しやすい納まりといったそれぞれの工夫を紹介する。

 西方設計を主催する西方里見代表は、高断熱高気密工法をベースに高性能で長寿命の木造建築を追求してきた。西方代表は40年を超える経験から、「最も耐久性の高い外壁材はムクの木材。抗菌成分を含む心材なら30年はメンテナンスフリーだ」と断言する。

 同社の事務所棟は築28年。南面は健全で、北側の地面に近い一部の辺材部分のみが腐食していた〔写真1〕。別に手掛けた築32年の住宅はレッドシダー心材の外壁で、腐食箇所は見られない〔写真2〕。

〔写真1〕築28年のスギ外壁でも劣化は限定的
〔写真1〕築28年のスギ外壁でも劣化は限定的
築28年を迎えた西方設計の事務所棟の南面。外壁に辺材を含むスギ板を無塗装で張っている
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事務所棟の北面。地面に近い部分の辺材は傷んでいる(写真:西方設計)
事務所棟の北面。地面に近い部分の辺材は傷んでいる(写真:西方設計)
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〔写真2〕築32年のレッドシダー外壁は腐食なし
〔写真2〕築32年のレッドシダー外壁は腐食なし
西方設計が手掛けた築32年の住宅の外観。外壁はウェスタンレッドシダー張り
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腐食しやすい地面の近くが健全な様子(写真:西方設計)
腐食しやすい地面の近くが健全な様子(写真:西方設計)
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 西方代表は最近、築30年になる自邸のスギ板外壁を塗り替えた。その際、新しいスギ板に交換したのは12枚だけ。交換した板は、木目の軟らかい部分が削れただけで腐食は見られなかった〔写真3〕。

〔写真3〕築30年のスギ外壁はほぼ健全で一部交換
〔写真3〕築30年のスギ外壁はほぼ健全で一部交換
西方代表の自邸。辺材を含んだスギ板外壁の築22年時。南・西面は木材保護塗料が剥がれていたが、木材は健全だった
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築30年時で塗り直したスギ板外壁。この際、表面の摩耗が激しい板を12枚交換した(写真:西方設計)
築30年時で塗り直したスギ板外壁。この際、表面の摩耗が激しい板を12枚交換した(写真:西方設計)
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 スギ板は安価で入手も容易だが、丸太に心材部分が少ないので辺材が混じりやすい。その点で有利なのが「ファサードラタン」と呼ばれる仕上げ工法だ〔図1〕。木板同士の隙間を空けて外壁を覆う工法で、ドイツやスイスなどで普及している。

〔図1〕「ファサードラタン」の納まり
〔図1〕「ファサードラタン」の納まり
付加断熱の外側に専用の透湿防水シートを張り、通気胴縁を打ち付けてスギ板を張る。専用透湿防水シートの価格は1棟当たり約25万円(資料:西方設計)
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 木板は幅90~100mmと小幅で、心材だけでそろえやすい。板同士に隙間があるので、水がたまりにくいのも利点だ。西方代表は2008年以降、この工法を数多く採用してきた。

 ファサードラタンは、外装の内側に雨水や日射が入り込むことが前提となる。そのため西方代表は、耐紫外線性能が高い専用の透湿防水シート(独ウルト社製)を用いる。板同士の隙間は透湿防水シートのメーカーが最大30mmと規定。西方代表の場合は、これに意匠性を勘案して幅15mmとしているという。

 木板張りは色むらで汚く見える問題もある。「スギ板は無塗装でも30年以上もつ。古びた表情も魅力だが、色などが満遍なく変化していかないのが難点だ」(西方代表)

 色むらは、軒やけらばの出幅により、雨や日射の当たり方が外壁の上部とその他で異なると生じやすい〔写真4〕。西方代表は軒やけらばの出がない意匠をあえて採用する〔写真5〕。

〔写真4〕軒の直下に色むら
〔写真4〕軒の直下に色むら
軒やけらばの出によって、日射や雨の当たり方に差が生まれ、外壁に色むらが生じた例(写真:西方設計)
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〔写真5〕あえて「軒ゼロ」で色むら防ぐ
〔写真5〕あえて「軒ゼロ」で色むら防ぐ
スギ板ファサードラタンの外壁。軒とけらばの出がなく、色むらが生じていない。表面は古色仕上げ(写真:西方設計)
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 「軒の出がなくても、外壁の透湿防水シートと屋根の下ふき材を連続させれば、防水に問題はない。納まりを工夫すれば、通気部材も取り付けられる。日射遮蔽は外付けブラインドを用いればきめ細かく調整できる。『軒ゼロ』はむしろ合理的だ」。西方代表はこう説明する。