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一条工務店が耐水害住宅に積極的に取り組んでいる。国の研究機関、防災科学技術研究所と共同で実大実験を実施。浸水深3mの洪水にも耐えられる住宅を開発した。開発と改良の経緯を紹介する。

 「この先、国内の洪水被害はさらに激甚化する恐れがある。それを見越して、我々住宅メーカーは余裕を持った耐水害住宅を提供しなくてはならない。本日の実大実験で、努力の成果をお見せしたい」

 2020年10月13日、茨城県つくば市の防災科学技術研究所(以下、防災科研)で耐水害住宅の実大実験を実施した一条工務店(東京都江東区)の岩田直樹社長は、実験前のあいさつで胸を張った〔写真1〕。

〔写真1〕他社に先駆けて耐水害住宅を開発
〔写真1〕他社に先駆けて耐水害住宅を開発
2020年10月13日、耐水害住宅の実大実験の開始に先立ってあいさつする一条工務店の岩田直樹社長。同社は20年9月1日に耐水害住宅の発売を既に開始している(写真:日経ホームビルダー)
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浸水深1.4mで浮き始める

 実大実験は防災科研と一条工務店が共同で実施した。防災科研の敷地に立つ大型降雨実験施設内の地面を掘削して貯水槽を築造。そこに一般仕様住宅(A棟)と水密性を高めた耐水害住宅(B棟)を設置し、浸水深3mの洪水を再現した。

 注水を開始したのは午前11時15分。その45分後、浸水深が1.4mを超えたところで、耐水害住宅が船のようにぷかぷかと浮き始めた。室内への浸水はほとんど見られない。その状態のまま、浮力を受けた住宅が基礎ごと持ち上げられたのだ。

 それでも、水と一緒に住宅が流されることはない。住宅基礎の4隅をワイヤに連結し、それを係留ポールにつないで水平方向の移動を制御しているからだ。上に動いても、横にはほとんど動かない。

 浮かせていなすことで、浸水深3mの洪水に対処する─。それがこの耐水害住宅のコンセプトだ〔写真2〕。

〔写真2〕浸水深1.4mで浮き始めた
〔写真2〕浸水深1.4mで浮き始めた
実験では浸水深3mの洪水を再現。実験開始から45分後、浸水深が1.4mを超えたところで住宅が浮き始めた。喫水1.4mを保ったまま、浸水深の増大とともに住宅は上昇を続けた。同じ場所で1年前に実施した同様の実験では、浸水深の上限は1.3mだった(右)(写真:日経ホームビルダー)
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