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住宅の浸水棟数は、河川決壊などによる「外水氾濫」よりも、排水インフラの能力を超えて地表にあふれる「内水氾濫」によるものが多い。特に都市部でその傾向が強い。住宅実務者にできることはあるか。

 水害には河川堤防の決壊などで起こる「外水氾濫」と、支流や下水道の排水能力が限界に達し、堤防で守られた内側(居住域側)で水があふれる「内水氾濫」がある〔写真1〕。

〔写真1〕都市部で近年多発する内水氾濫
〔写真1〕都市部で近年多発する内水氾濫
2020年夏に発生した「令和2年7月豪雨」は、九州地方を中心に各地で甚大な水害をもたらした。福岡県久留米市では、筑後川の支流でポンプの排水能力が限界に達し、低地が浸水する内水氾濫が起きた(写真:AFP/アフロ)
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 堤防決壊による水害は甚大な被害につながりやすいので、外水氾濫ばかりに目が向きがちだが、実は水害の浸水棟数を比べると、内水氾濫による方が圧倒的に多い。住宅実務者は、両方に目配りする必要がある。

浸水棟数の7割が内水氾濫

 内水氾濫には2つのタイプがある〔図1〕。1つは、短時間の豪雨で雨水が地表にあふれる氾濫。もう1つは、豪雨で河川の水位が上がり、周辺の支流や下水道の雨水を河川に排出できずに発生する氾濫だ。

〔図1〕内水氾濫には2つのタイプ
〔図1〕内水氾濫には2つのタイプ
内水氾濫には、雨水の排水能力が追いつかずに発生する「氾濫型」と、河川の水位上昇で支流や下水道から排水できずに発生する「湛水型」がある(資料:気象庁の資料を基に日経ホームビルダーが作成)
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 内水氾濫の要因として多くの専門家が指摘するのが、都市部を中心とする新興市街化区域の開発だ。市街化することで地盤の貯水能力が減少し、雨水が外部に流出しやすくなって、周辺の低地やくぼ地での浸水リスクが高まる。こうした低地は比較的地価が安く、住宅会社が競って家を建てる例が多く、内水氾濫の被害が多発しやすい。ゲリラ豪雨はこうした場所の内水氾濫リスクを一層高める。

 これまで内水氾濫の浸水深が1mを超えた例は少なく、人命を脅かすリスクは相対的に小さかった。

 しかし、国内全体でみた内水氾濫の経済的損失は甚大だ。2008年から17年の国内全体の水害被害総額は約1.8兆円に達し、その4割を内水氾濫が占める(東京都は7割)。

 さらに浸水棟数で比べると、内水氾濫は全体の約7割を占め、外水氾濫の2倍以上だ〔図2〕。多くの住まい手にとって内水氾濫は身近な脅威だ。

〔図2〕浸水棟数の約7割は内水氾濫に起因
〔図2〕浸水棟数の約7割は内水氾濫に起因
2008年から17年の全国の水害をまとめたデータ。被害額でみると内水氾濫は全体の39%だが、浸水棟数は全体の69%を占める(資料:国土交通省の「水害統計」を集計して作成)
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