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この20年余の間に住宅被害をもたらした自然災害を俯瞰(ふかん)すると、被害棟数は阪神大震災と東日本大震災が突出し、熊本地震や新潟県中越地震が続く〔図1〕。そうした震災に加えて近年は、非常に強い風の「暴風台風」と豪雨が目立ってきた。2018年の台風21号と19年の台風19号は、住宅損害の保険支払い金額でも東日本大震災に次ぐ〔図2〕。
〔図1〕東日本大震災が被害棟数で突出
阪神大震災以降に発生した主な自然災害と住宅の被害棟数を時系列で並べた。被害棟数は東日本大震災が圧倒的に多い。被害棟数は消防庁のデータに基づく(資料:日経ホームビルダー)
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〔図2〕台風被害が2~4位に
自然災害で損傷した住宅に支払われた地震保険と火災保険の保険金額を2000年以降で多い順に並べた(資料:日本損害保険協会)
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震度7クラスの地震は、阪神大震災が起きた1995年から2021年2月までに計5回発生した。だが、阪神大震災を教訓として00年6月から大きく見直された木造住宅の耐震基準が、再び改正を迫られる事態にはならなかった。
阪神大震災後の地震で課題となったのは、地盤に起因する住宅被害だ〔図3〕。東日本大震災では液状化で約2万7000カ所の宅地が被災〔写真1〕。造成時の大規模盛り土も各地で崩壊し、巻き込まれた住宅の悲惨な状態は衝撃を与えた〔写真2〕。熊本地震でも、東日本大震災を超える箇所数の宅地が、被災後一時的に立ち入りが「危険」もしくは「要注意」となった。
〔図3〕地震で宅地に深刻な被害
主な地震の発生後に液状化で住宅が被災した宅地と、被災宅地危険度判定で立ち入りが「危険」もしくは「要注意」とされた宅地の箇所数。阪神大震災の液状化データは兵庫県尼崎市と芦屋市で確認された数を諏訪靖二技術士の協力で集計した。それ以外のデータは国交省と県などに聞いた(資料:日経ホームビルダー)
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〔写真1〕東日本大震災で広範囲が液状化
東日本大震災で液状化が発生した千葉県浦安市内の様子。本震から9日たった2011年3月20日に撮影(写真:日経コンストラクション)
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〔写真2〕大規模盛り土が崩落
東日本大震災で住宅が地盤被害に巻き込まれた様子。大規模盛り土が崩落した仙台市青葉区折立地区で2011年3月27日に撮影(写真:日経ホームビルダー)
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東日本大震災を契機に、それまでほとんど講じられていなかった住宅での液状化対策の検討が進んだ。広範囲に液状化が発生した千葉県浦安市内の住宅被害を浦安市などが調べ、非液状化層まで届く杭基礎を施工した住宅が不同沈下していないことを確認。国土交通省は住宅の新築時に実施できる液状化対策を2つ提示した。1つは、宅地での液状化被害可能性判定の実施〔図4〕。もう1つは、住宅性能表示制度を用いた液状化リスクの開示だ。しかしどちらの方法も、現在までに普及したとは言い難い。
〔図4〕宅地の液状化被害可能性判定方法を作成
宅地の液状化被害可能性判定方法の判定図。国土交通省が「宅地の液状化被害可能性判定に係る技術指針」で示した。非液状化層厚(H1)と地表変位量(Dcy)の関係からリスクを判定する(資料:国土交通省)
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液状化した既存市街地を街区ごと再発防止する事業は、東日本大震災後に7市町村の計14地区で実施された。地盤の地下水位を下げる工法が多く採用された〔図5〕。街区での液状化対策は13年度に全国向けの制度となり、熊本地震、北海道胆振東部地震後にも活用された。
〔図5〕街区ごと液状化対策を実施
東日本大震災で液状化した既存市街地に多く採用された「地下水位低下工法」の仕組み。事業実施区域を止水壁で囲み、揚水井戸で地下水を継続してくみ上げ液状化の発生を抑える(資料:浦安市)
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熊本地震では、「新耐震基準」(1981年6月施行)が抱えていた接合部のリスクも顕在化した〔写真3〕。木造住宅の接合部に関する現行の仕様規定は、2000年6月に建築基準法に導入された。日本建築学会が熊本県益城町で実施した調査では、倒壊や大破した住宅の3割以上が1981年6月以降に建てられた新耐震基準で、そのうち倒壊した住宅の9割以上が現行の仕様規定を満たしていなかった〔図6、7〕。
〔写真3〕新耐震基準の住宅が全壊
熊本地震で甚大な被害が発生した熊本県益城町で、新耐震基準の住宅が全壊した様子。接合部の仕様規定が導入される前の1996年に完成していた(写真:日経ホームビルダー)
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出隅の柱を金物で緊結していなかった(写真:日経ホームビルダー)
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〔図6〕倒壊・大破した住宅の3割は新耐震
熊本地震で倒壊・大破した熊本県益城町内の住宅の建築時期(資料:「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会報告書」を基に日経ホームビルダーが作成)
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〔図7〕新耐震の9割が現行基準に不適合
新耐震基準の導入以降に熊本県益城町内で建てられ、熊本地震で倒壊した住宅の柱頭柱脚金物の状態。9割が現行基準に不適合だった(資料:「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会報告書」を基に日経ホームビルダーが作成)
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日本建築防災協会は国交省の要請を受け、2017年に「新耐震基準の木造住宅の耐震性能検証法」を発行。これを機に、一部の自治体は新耐震基準の住宅にも耐震診断と改修費用の助成制度を拡充した。新耐震基準のリスクが知られ、耐震改修のニーズも徐々に拡大する〔写真4〕。
〔写真4〕新耐震の耐震改修が進む
耐震改修した1992年完成の新耐震基準の住宅。耐震改修前。山形プレートを指定外のクギで留めていた(写真:金井工務店)
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改修後。金井工務店(埼玉県川口市)が引き抜き対策金物と正規の筋交い端部金物で緊結した(写真:金井工務店)
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