新築市場の縮小や担い手減少のトレンドは、今後も抜本的な回復を見込めない。地域に根差す工務店が次代に進むうえで欠かせないポイントとは?──。現在までの変化から、少し先の「未来」を考える。
日経ホームビルダーは創刊10周年を迎えた2009年7月号で、「10年後も顧客に選ばれる」と題した記念特集を掲載した。工務店や地域住宅会社が、10年先を見据えて進むべき方向性について、考察した内容だ〔図1〕。
同特集では5つの視点で、方向性を示唆する具体的な取り組み例を紹介した。「法制度の変化への対応(先取る!)」「プロ同士の柔軟な連携(変わる!)」「情報発信の仕方(伝える!)」「ニーズに即した顧客対応(応える!)」「新たな事業機会の追求(拓く!)」という視点だ。
これらは現在でも重要な視点。だが前章まで整理してきたように、住宅産業を取り巻く環境は、この10年余だけでも激変した。それを踏まえて、家づくりのプロにとって今後の重要なカギをいくつか考えたい。
「最低基準」では生き残れない
家づくりを取り巻く環境で、この10年余の間に大きく変化した面は多岐にわたる。ここでは「法制度と住宅の技術・性能との相関」「自然災害が家づくりに突き付けた課題」「一般消費者(顧客)とプロとの情報格差」「住宅市場と住宅産業の構造変化」の4点に注目する〔図2〕。
まず「法制度と住宅の技術・性能との相関」について。建築基準法の耐震基準を例に挙げてみよう。1995年の阪神大震災を事実上の契機として生まれた現行の2000年基準。大規模地震の住宅被害はその後も全国各地で発生し、16年に発生した熊本地震では、現行基準相当の木造戸建て住宅の倒壊・全壊事例も報告され、注目を集めた。
建基法の耐震基準は「最低限の性能水準」であり、それを満たしているだけでいいのか?──。日経ホームビルダーが20年9月号特集「耐震等級3が新標準!」〔図3〕で提示を試みたのは、そうした問題意識だった。実際、今日の住宅会社では「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(品確法)の住宅性能表示制度に基づく等級3など、建基法基準より高い性能水準を自社の標準にする取り組みも、既に当たり前になりつつある。
省エネ性能も似た側面がある。現行制度上、戸建て住宅を含む小規模建築物は省エネルギー基準の適合義務から除外されている。その一方でプロの提案や顧客のニーズとして、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)や、外皮の断熱性能に限っては「20年先を見据えた日本の高断熱住宅研究会」(HEAT20)の仕様など、より高い性能水準を追求する例は、いまや珍しくない。
住宅性能について、これらの動きは「顧客や社会のニーズからは『最低基準を満たせばOK』で済む時代ではない」という現状を示す。今後を考えるうえで重要な立脚点だ。