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地域の拠点病院が大地震に遭ったとき、医療機能は継続できるのか──。耐震構造と免震建物が隣り合う試験体を用い、内部の機器配置も含めて実際の病院を再現した実大振動実験が実施された。

 振動台の上に立つ4階建てと3階建てをつないだ試験体。内部空間を見比べると、4階建て側では医療機器がいくつも倒れているのが分かる。防災科学技術研究所(防災科研)・兵庫耐震工学研究センター(兵庫県三木市)の3次元振動実験施設(通称、E-ディフェンス)で実施された実大振動実験で、加振が終わった直後の様子だ〔写真1〕。

〔写真1〕医療機器が次々転倒
〔写真1〕医療機器が次々転倒
2階を渡り廊下でつなぎ、拠点病院を模した試験体を加振した直後の様子。耐震構造の試験体(左側)内部では医療機器が数多く転倒した(写真:日経アーキテクチュア)
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 この実験の実施主体は防災科研と京都大学防災研究所。文部科学省による「首都圏を中心としたレジリエンス総合力向上プロジェクト」の一環として、2020年12月4日、報道機関に公開する形で実施された。

 実験テーマは、大地震における拠点病院の機能継続性の検証だ。試験体の2棟はいずれも鉄骨造で、2階部分を渡り廊下で結んだ。4階建て側を耐震構造、3階建て側を免震構造としている。施設の一部を免震化した病院を模したものだ〔図1〕。

〔図1〕免震建物と耐震建物を渡り廊下でつなぐ
〔図1〕免震建物と耐震建物を渡り廊下でつなぐ
試験体の概要。耐震構造側は1階が階高3.6m、2階以上が同3.4mで、平面の大きさは7m×10m、高架水槽を備える。免震構造側は階高3.5mで、平面の大きさは5m×6m。各室の用途で実際に用いられている医療機器を内部に配置した(資料:防災科学技術研究所)
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 耐震構造側は拠点病院として建築基準法の1.5倍の耐力を確保。免震構造側は基部を低摩擦タイプの球面式滑り支承を設置した〔写真2〕。内部は間仕切りで区画、現実の病院と同水準の医療機器を配置し、手術室のベッドには患者の代わりにマネキンを寝かせた。

〔写真2〕球面式滑り支承を採用
〔写真2〕球面式滑り支承を採用
免震棟基部の免震デバイス。最大600mmの変位を許容する。実験での変位は最大約180mmにとどまった(写真:池谷 和浩)
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