ホールやスタジアムでしばしば問題化する「縦ノリ振動」。正体は、盛り上がった観客がジャンプして生じる特異な揺れだ。近隣地盤に伝搬してトラブルとなることも。日建設計が防振技術に関する実験を公開した。
「準備はいいですか。では、お願いします」
鋼材でつくった細い橋のような構造物の上で、5人の大人が一定のリズムで飛び跳ね始めた。2022年12月15日、愛知県長久手市で日建設計が実施した、「縦ノリ振動防振架構」の公開実験の模様だ〔写真1〕。
実験は同社が開発した縦ノリ対策技術の実証を狙いとして、名古屋大学の協力を得て実施したもの。機械メーカーのテクノサポート(愛知県一宮市)が試験体製作を担当した。
縦ノリ振動とは、コンサートで演奏される音楽やスポーツ観戦時の応援歌などに合わせ、観客が一定のリズムで一斉に飛び跳ねることで生じる揺れを指す。この揺れの振動数は1秒間に2回から3回、つまり2~3Hzとなる場合が多く、会場施設のみならず、地盤を伝搬して近隣の建物まで揺らしてしまう場合がある〔図1〕。
対策技術の開発を担当した日建設計エンジニアリング部門構造設計グループアソシエイトの朝日智生氏は、こう説明する。「数千人、数万人規模のイベントで、観客が同じリズムで一斉に飛び跳ねると、その運動エネルギーは無視できないレベルに達する。会場内では縦揺れだが、地盤を伝搬する過程で横揺れとなり、近隣住民からすれば、原因不明の地震が何分も続く事態になる」
同社の調査によると、会場施設から数百メートル離れた建物でも、この揺れが影響する場合があるという。縦ノリ振動が近隣問題に発展し、ロック系アーティストのイベントを禁止する、あるいは曲調を限定するといった対策を余儀なくされた施設もあるほどだ。今後、新設されるホール施設などにおいて、収益の柱としてコンサート事業を見込むには、この問題の解決が欠かせない。