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2022年3月16日午後11時36分ごろ、福島県沖を震源とするマグニチュード(M)7.4の地震が発生し、最大震度6強の揺れが東北地方を襲った。全壊した建物は比較的少なかったものの、天井の落下や外壁・内壁の剥落、設備機器の破損といった非構造部材の被害が多発した。被害状況を現地から報告する。

 「2011年の東日本大震災でも、このような被害は出なかったのに」。宮城県白石市の文化体育活動センター(ホワイトキューブ)で、天井が崩落したコンサートホールをぼうぜんと見つめながら、市文化体育振興財団の菅原聡副主幹はつぶやいた。

 22年3月16日深夜の福島県沖地震で震度5強の揺れを観測した白石市。市内では東北新幹線が脱線し、橋脚が損傷するなどの甚大な被害が生じた。ホワイトキューブも際立った被害を受けた施設の1つ。コンサートホールの天井パネルや照明が大きく崩落し、ホールの象徴であるパイプオルガンのパイプの一部が折れ曲がった〔写真1〕。

〔写真1〕吊り天井が大規模崩落
〔写真1〕吊り天井が大規模崩落
天井が崩落したホワイトキューブのコンサートホールの様子。2011年の東日本大震災などではホールの天井に被害はなかったが、22年3月16日の地震で大きく崩落した。22年3月17日撮影(写真:村上 昭浩)
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ホワイトキューブの外観。22年3月17日撮影(写真:村上 昭浩)
ホワイトキューブの外観。22年3月17日撮影(写真:村上 昭浩)
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ホワイトキューブの断面図。施設は鉄骨造、一部鉄筋コンクリート造で、地上4階建て。延べ面積は約1万3050m<sup>2</sup>で、コンサートホールの天井の高さは約11mだ
ホワイトキューブの断面図。施設は鉄骨造、一部鉄筋コンクリート造で、地上4階建て。延べ面積は約1万3050m2で、コンサートホールの天井の高さは約11mだ
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 菅原副主幹は、「ホールの天井は1年に2、3回点検を実施していたが、問題はなかったため、こうした被害は全く想定していなかった」とうなだれる。

「人がいれば脳挫傷レベル」

 ホワイトキューブは、アリーナや楕円形平面をしたコンサートホールなどから成る地上4階建ての複合施設。1997年に竣工した有名建築だ。意匠設計は堀池秀人都市・建築研究所、構造設計は織本匠構造設計研究所、音響設計は永田音響設計が手掛けた。施工は大林組・奥村組JV(共同企業体)。98年にBCS賞を受賞している。

 610席を擁するコンサートホールは、パイプオルガンの演奏を念頭に空席時で3.9秒/500Hzの残響時間を確保している。音響を考慮したホールの天井は三角形のユニットで構成した複雑な多面体。在来の軽量鉄骨天井下地でユニットを製作し、立体的に組み合わせて天井を形づくっていたようだ。落下した天井パネルは石こうボードを5枚ほど重ねたもので、かなり厚みがある。〔写真2〕。

〔写真2〕高さ約11mから落下
〔写真2〕高さ約11mから落下
客席に落下した天井パネル。パネルは石こうボードを5枚ほど重ねた、かなり厚みのあるものだった。吊りボルトの定着部から外れたようだ。2022年3月18日撮影(写真:日経アーキテクチュア)
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 市まちづくり推進課によると、天井の高さは約11m。天井の安全対策に詳しい東京大学生産技術研究所の川口健一教授は、「このような仕様の天井が落下して人に直撃すれば、脳挫傷以上のけがになるレベルだ。昼間の地震でなかったことが不幸中の幸いだった」と指摘する。