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福島県相馬市などで震度6強を観測した福島県沖地震。周囲の建物は無傷なのに、比較的新しい免震建物に損傷が生じるケースがあった。細部に注意して設計しないと、免震の評判を落としかねないと専門家は危惧する。

 エキスパンションジョイントが衝突し、外構のコンクリートが大きくひび割れる──。これは、2月13日に発生したマグニチュード(M)7.3の福島県沖地震で、免震構造の庁舎に生じた被害だ〔写真1図1〕。日本免震構造協会が3月29日、福島県内の調査概要を公開して明らかになった。

〔写真1〕エキスパンションジョイントが衝突か
〔写真1〕エキスパンションジョイントが衝突か
外構が大きくひび割れた福島県内の庁舎。免震構造を採用している。写真右上が、跳ね上げ式のエキスパンションジョイント。日本免震構造協会の調査によると、この庁舎は震度6強の揺れで西側(写真左手)に向かって約13cm、東側に約6cm移動した(写真:久田嘉章・工学院大学教授)
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〔図1〕マグニチュード7.3の福島県沖地震は東日本大震災の「余震」
〔図1〕マグニチュード7.3の福島県沖地震は東日本大震災の「余震」
防災科学技術研究所のK-NET、KiK-netで観測した福島県内の強震記録。左は加速度応答スペクトル(東西成分、減衰定数5%)、右は変位応答スペクトル(東西成分、減衰定数10%)(資料:日本免震構造協会)
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 この庁舎は、鉛プラグ入り積層ゴム支承と天然ゴム系積層ゴム支承、転がり支承、弾性滑り支承を用いた鉄骨造の免震建物。2016年に完成した。建物周りのクリアランスを覆うエキスパンションジョイントには、設置が容易で段差が生じない「跳ね上げ式(せり上がり式)」を用いている。

 跳ね上げ式のエキスパンションジョイントは、建物が外構側(非免震部)に向かって動くと、傾斜に沿って板が跳ね上がる仕組み。この庁舎では地震時にうまく跳ね上がらず、傾斜に衝突したとみられる〔図2写真2〕。

〔図2〕エキスパンションジョイントが跳ね上がらず
〔図2〕エキスパンションジョイントが跳ね上がらず
建物が動くと傾斜に沿って板が跳ね上がる仕組みだったが、実際には跳ね上がらず衝突したとみられる(資料:取材を基に日経アーキテクチュアが作成)
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〔写真2〕外構のコンクリートが損傷
〔写真2〕外構のコンクリートが損傷
〔写真1〕の反対側の様子。外構が損傷している。左上がエキスパンションジョイント(写真:久田嘉章・工学院大学教授)
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 同協会の調査団の一員として調査を担当した工学院大学の久田嘉章教授は、「傾斜が約45度と急で、外構側の地盤が軟弱だったようだ。跳ね上がらずに押し込んでしまい、外構が損傷したのでは」と指摘する。