林野庁長官賞を受賞するなど高い評価を受けていた木造・平屋の大規模保育園が全焼した。専門家は「要求性能を十分発揮したのでは」と指摘する一方で、「消火しやすい建物をつくることが重要だ」と教訓を語る。
「バキバキと何度も大きな音がしたので、気になって目を向けると窓の外が赤く光っていた。火事だと分かり外に飛び出すと、保育園から住宅の2倍くらいの高さの火柱が立っていた。熱気の中で、ぼうぜんと炎を眺めるしかなかった」。5月11日深夜に三重県いなべ市の「いなべ市立笠間保育園」で発生した火災〔写真1〕。近隣に住むA氏は、多数の受賞歴を持つ地元でも有名な保育園が炎上する様子を、こう証言する。
いなべ市消防署によると、火災を覚知したのは5月12日午前0時3分。同日午前0時11分に1台目の消防車両が到着し、最終的には消防車両20台、80人が出動した。消防署の職員は、「到着後すぐに放水を始めたものの、既に手が付けられない状況だった」と話す。
1台目の消防車両が現場に到着する直前に、約1km離れた場所から現場を撮影した写真には、大きな炎と真っすぐ立ち上る煙が写っている。撮影者のB氏は、「あんなに大きな火災は見たことがない」と言う〔写真2〕。
延べ面積約1700m2が全焼した木造平屋建ての笠間保育園は、13年に竣工した。平面は中庭を囲んだ東西に細長いロの字形で、一続きの屋根の下に保育室や調理室など全ての機能を配置したのが特徴だ。意匠設計はアール・アイ・エー(東京都港区)、構造設計は木構堂(岐阜県美濃加茂市)、設備設計は森本設備設計(津市)が担当した。
22年4月時点で、同園には122人の園児が通っていたが、火災は深夜だったため負傷者などはいなかった。鎮火は火災発生から約8時間後の5月12日午前8時6分。いなべ市消防署によると、同18日時点で火元や出火原因は特定できていない〔写真3、4〕。