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下部起点の進行性崩壊か

 構造物の一部の要素が壊れることでダメージがほかの部分に波及していく崩壊現象を、進行性崩壊と呼ぶ。「今回も、建物の下の方の構造要素が壊れたことによる進行性崩壊と言えるのではないか」(磯部教授)

 中央部分に続いて崩落した東側の部分について磯部教授は、「最初の崩落でかなりの衝撃が発生しただろう。その影響が大きかったのでは。また、最初に崩落した部分とつながっている箇所を通じて、引きずり倒されたとも考えられる」と語る。

 大規模な建物の一部あるいは全体が一気に崩落した進行性崩壊の事例には、英国の高層集合住宅「ローナンポイント」の一角が1968年、ガス爆発をきっかけに崩落した事故や、航空機の衝突によって超高層ビルが崩壊に至ったWTCのケースがあるが、いずれも起点ははっきりしている。磯部教授は「きっかけらしいきっかけが見当たらず、あれほど大規模に崩れた点で、今回の事故は極めて珍しい」と指摘する。

スラブの防水などに問題

 崩落の原因は特定されていない。テロやガス爆発の可能性は低そうだが、建物で進められていた屋根工事の影響や地盤沈下のほか、塩害などによるコンクリートの劣化が惨事を引き起こしたとの見立てもある。

 原因を探る手掛かりとして注目されているのが、構造エンジニアリング会社の米Morabito Consultants(モラビトコンサルタンツ)が2018年10月、集合住宅の管理組合に提出した建物の調査報告書だ。

 報告書では建物の構造が抱える問題として、1階の車道・プールデッキ・植栽の防水を挙げる。耐用年数を超えているうえ、防水層を設置したRC造の1階床スラブには排水のための勾配がないからだ。

 同社は「防水の欠陥によって、スラブに損傷を引き起こしつつある。防水層の交換を怠ると、コンクリートの劣化の程度が指数関数的に進行する」と指摘している。補修には手間と時間がかかるため、費用が高額になるとも記している。

駐車場の柱などに剥離

 報告書では、地下駐車場の柱や梁、壁に大小様々なひび割れ、コンクリートの剥離が見つかったとも指摘している〔写真3〕。また、駐車場入り口の斜路の上面と、車道・プールデッキ・植栽のスラブ下面のいずれにもコンクリートの剥離が見つかり、腐食した鉄筋が露出している箇所もあったようだ。モラビトコンサルタンツは報告書で、「コンクリートの劣化の大半は直ちに補修を要する」としていた。

〔写真3〕駐車場で見つかった損傷
〔写真3〕駐車場で見つかった損傷
モラビトコンサルタンツが2018年の報告書で指摘した駐車場の柱や床の損傷例(写真:Town of Surfside)
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 管理組合は20年6月にモラビトコンサルタンツと改めて契約。同社は大規模修繕計画を作成した〔図3〕。同社によると、事故時点で屋根の改修が進められていたが、コンクリートの補修は始まっていなかったという。同社は事故後に「18年の報告書では、とりわけコンクリートの重要なひび割れや損傷について詳述している。住人と公共の安全を確保するために、補修が必要だった」と発表している。

〔図3〕大規模修繕に向けて検討が始まっていた
〔図3〕大規模修繕に向けて検討が始まっていた
モラビトコンサルタンツが2021年4月に作成した、コンクリートの補修に関する図面の一部。図の右側はプール、左側は駐車場、その上がプールデッキ。損傷の程度に応じて鉄筋を追加するなどの補修方法を示している(資料:Town of Surfside)
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 磯部教授は「フロリダ州はハリケーンの常襲地帯。建物が海水をかぶれば、塩害で劣化が進行しやすくなる。日本でも築50~60年になるような建物が増えている。仮に劣化が崩落の原因だとすれば、決して対岸の火事ではない」と語る。