九州地方などを蹂躙(じゅうりん)した「令和2年7月豪雨」。人的被害は死者68人、行方不明者12人、家屋の被害は1万2660棟に上る(7月12日時点)。防災と街づくりをいかに両立するか、改めて重い課題を突き付けた。
活発な梅雨前線の影響で7月3日から降り続いた雨は、熊本県南部に河川の氾濫による家屋の浸水や土砂災害など、多大な被害をもたらした。
気象庁によると、熊本県球磨村における7月4日午前9時30分までの12時間降水量は、観測史上最大の396.5mmを記録。同村を含む県南部では、わずか半日で7月の平均降水量に匹敵する雨が降り、日本3大急流の1つとして知られる1級河川の球磨川が氾濫した〔図1〕。
球磨川流域でとりわけ被害が大きかった自治体が、人吉市と球磨村だ〔写真1~3〕。人吉市では19人が死亡。浸水深が10mに近い箇所もあったとみられる〔図2〕。
球磨村の渡地区では、支流の小川と球磨川の合流地点に位置する特別養護老人ホーム「千寿園」が浸水し、14人が死亡した。付近の観測所の記録では、4日午前1時に4.01mだった水位が午前4時に氾濫危険水位の8.7mを超えて9.29mに達し、午前7時には12.55mまで上昇していた。合流地点は水位が上昇しやすい地形で知られ、何度も浸水被害に見舞われてきた。今回も、増水した本流に支流がせき止められて水位が上昇するバックウオーター(背水)が起こったようだ。国土交通省は2014年に、合流をスムーズにして水位の上昇を防ぐ導流堤を整備したが、被害を防ぐことはできなかった。
千寿園は浸水想定区域内に立つため「避難確保計画」の作成が義務付けられており、避難訓練も実施していたとされるが、流域政策が専門の瀧健太郎・滋賀県立大学准教授は、「水位の上がり方が急だったため、日ごろから訓練をしていても対応は極めて困難だっただろう」と指摘する。「避難を前提とするような場所に要配慮者利用施設が立ってしまうような街づくりは適切なのか。立地計画を見直す必要がある」(瀧准教授)