26人が犠牲になった大阪・北新地のビル放火殺人事件からおよそ半年。総務省消防庁と国土交通省の有識者検討会は、既存不適格建築物の安全性向上に向け、「退避区画」の確保や遡及適用の一部免除を提言した。
まずは事件について振り返っておこう。舞台となった堂島北ビルは3方向を建物に囲まれた1970年竣工の既存不適格建築物。北側に階段室とエレベーターが1つずつあるのみで、2方向避難は確保されていなかった。火災が起こった4階に入居していたのは診療所だ。事件後に死亡した容疑者は、診療所の入り口がある階段室付近でガソリンをまき、ライターで火を付けた〔写真1、2〕。
唯一の避難経路を塞がれた在館者の多くは逃げ場を失い、一酸化炭素中毒などで亡くなったとみられる。総務省消防庁が2022年6月21日に公表した火災原因に関する報告書によると、着火から6秒後に炎が天井に達し、10秒後に待合室にいた人が建物の奥へ避難する様子を、診療所の防犯カメラが映し出していた。
総務省消防庁と国交省が6月28日に公表した「大阪市北区ビル火災を踏まえた今後の防火・避難対策等に関する検討会」(座長:菅原進一・日本大学大学院教授)の報告書では、避難階や地上に通じる直通階段が1つしかない既存不適格建築物の安全性を向上させるために、いくつかの対策を提言した。
ポイントの1つが、2方向避難の確保を原則としつつ、代替措置を示した点だ。敷地の制約などで直通階段の増設や避難に有効なバルコニーの設置などが難しい場合、直通階段から離れた居室や廊下などを防火的に区画した退避スペース(以下、退避区画)を確保するよう求めた。火災が発生してから救助が来るまでの間、一時的に人命を守れるようにして時間を稼ぐのが狙いだ。
具体的には、居室単位で区画する「居室退避型」と、廊下を一定の距離ごとに区画する「水平避難型」の2タイプを示した。区画には不燃・遮煙性能を有する戸を用いる。壁は原則として準耐火構造か、不燃材料を用いたものとする。外部から救助ができるように、人が乗り出せる大きさの開口部を設ける〔図1〕。
さらに、直通階段の防火・防煙区画化も講じる必要があるとした。避難経路を防護したり、直通階段を介して上階へ煙が拡散するのを防いだりするのが目的だ。区画化には遮煙性能のある防火設備を用いる〔図2〕。