7月18日に発生した京都アニメーション第1スタジオ(京都市伏見区)の放火事件。専門家による現場調査やシミュレーションから火災メカニズムが次第に見えてきた。出火後30秒で建物内に高温の煙が充満したとみられる。
京都アニメーション放火事件による死傷者は69人。事件当時、建物内には70人の社員がいたが、無傷で逃げられたのは1人だけだった。
なぜこれほどまでに被害が拡大したのか。京都大学防災研究所の西野智研准教授は、煙がどのように広がったのかを明らかにするために、出火から30秒間で各階の天井に煙が蓄積してできた煙層の高さと温度を試算した〔図1〕。
被災した建物は鉄筋コンクリート造・3階建てで、延べ面積約690m2。建物内部には、南側に1階から3階に続く吹き抜けのらせん階段と、西側に1階から屋上まで続く内階段を設置していた〔図2、写真1〕。放火犯は、1階のらせん階段付近でガソリンをまいて火を付けたとみられる。
計算時間 | 出火から30秒 |
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時間刻み | 1秒 |
室数 | 24 |
階高 | 3m |
天井の内装材 | 石こうボード |
壁の内装材 | 石こうボード |
らせん階段の形状 | 吹き抜け(2.14m×1.94m×9m) |
らせん階段の開口 | 8.16m×2.1m(1階、2階、3階) |
内階段の形状 | 吹き抜け(3.9m×2.66m×12m) |
内階段の開口 | 0.9m×2m(1階、2階、3階) |
外壁窓ガラス | 閉鎖(隙間0.1%)、170℃で脱落 |
室内ドア | 閉鎖(隙間2%) |
火源の発熱速度 | 10秒で最大発熱速度20,000kW |
火源の位置 | らせん階段の西側に隣接する室 |
分析結果によると、出火からわずか5秒でらせん階段に大量の煙が流入。らせん階段が伝播経路となり、煙を含んだ熱気流が上昇して2階と3階の天井に到達した後、煙層が形成された。1階の煙層は出火直後に1000℃を超え、建物内の可燃物が温められて着火したことで火災が拡大した可能性が高いと西野准教授は分析する。
煙は内階段にも出火直後から流入し、出火から15秒後には屋上に通じる出口付近に煙が充満した。この時点で3階の煙層は100℃を超えて、床から1.1mの高さにまで降下している。「出火から15秒で3階にいた人の生死は決まったのではないか」(西野准教授)
20秒後には2階の煙層の温度も100℃を超えた。西野准教授は、「避難可能な時間は極めて短かった。出火から30秒で2階から上の空間には高温の煙が充満していた」と語る。