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一条工務店が9月1日に発売した「耐水害住宅」は、船のように浮かんで洪水をやり過ごすのが特徴だ。防災科学技術研究所との共同研究を踏まえて完成させたこの商品は、気候変動時代のスタンダードとなるか。

 洪水で水位がみるみる上昇するなか、ゆっくりと浮かび上がる2階建ての木造戸建て住宅。水が引いた後は元の位置に着地する──。防災科学技術研究所(防災科研)と一条工務店は10月13日、同社が発売した「耐水害住宅」が水深3mの洪水に耐えられるか確認する実大実験を、報道陣に公開した〔写真1〕。

〔写真1〕洪水が発生しても浮き上がって浸水・流出を防ぐ
〔写真1〕洪水が発生しても浮き上がって浸水・流出を防ぐ
防災科学技術研究所の施設内で「耐水害住宅」の実証実験をする様子。住宅が立つ大型水槽内の水位は1分間に約3cm上がり、水深が約1.4mに達すると住宅が浮き始めた。その後、水深3mになるまで注水を継続。内部へ浸水することなく、耐水害住宅の四隅は地上から約1.4~1.7m上昇した。水深3mで住宅が浮上中、写真下から住宅のリビングがある面に向かってポンプで流速約3m/秒の水流を発生させたが、住宅が流されたり内部へ浸水したりすることはなかった(写真:日経アーキテクチュア)
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 両者は2019年から共同で、住宅の水害被害軽減プロジェクトを開始。防災科研の施設内に、一般的な仕様の住宅と、気密性を高めるなどして水害対策を施した耐水害住宅の2棟を建設し、実際に浸水させて、被害の検証を重ねてきた。防災科研の酒井直樹主任研究員は「住宅の水害リスクが定量的に分かってきた」と、これまでの実験の成果を語る。

 例えば実験の成果の1つとして、気密性の高い耐水害住宅は浸水深約1.4mになると浮力が建物の重量を上回り、浮き始めることが分かった。一条工務店の開発責任者である萩原浩氏は、「浮力対策をしないと、被災時に住宅が流出して二次被害を引き起こす」と考え、防災科研と課題解決に取り組んだ。こうして誕生したのが、浮くことを前提にした新たな耐水害住宅だ。

水密仕様で浮かせる

 浮いて洪水をやり過ごす耐水害住宅には、大きく4種類の対策を施してある。浸水対策、水没対策、逆流対策、そして浮力対策だ〔図1〕。

〔図1〕耐水害住宅には4つの対策を盛り込んだ
〔図1〕耐水害住宅には4つの対策を盛り込んだ
一条工務店の耐水害住宅の主な仕様。外壁はタイル張りで、漂流物の衝突で破損しても部分補修で済む。窓はトリプルガラスで、屋外側は強化ガラスを採用した(資料:一条工務店の資料を基に日経アーキテクチュアが作成)
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 まずは浸水対策。基礎の換気口の内側にボックスを設け、この中にフロート弁を配置。換気口を通じてボックス内に水が浸入すると弁が浮いて蓋をし、基礎内部を密閉する。玄関ドア用に気密性が高いパッキンを開発したほか、1階には引き違い窓よりも気密性が高い開き窓を採用した。

 外壁内部への浸水防止策として、浮上時に水に漬かる約1.7mの高さまでは、外壁を包み込むように透湿防水シートを施工した。

 室外機や蓄電池、電気給湯機などの電気設備は水没対策として、浸水しない高さで建物に固定した。また、汚水の逆流対策として、床下の排水管に逆流防止弁を設けている。