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 2021年12月17日に発生し、26人が亡くなった大阪・北新地の雑居ビル放火事件。総務省消防庁の研究機関である消防研究センターがシミュレーションをした結果、出火から1分足らずでフロア全体に高温の煙が充満するなど、避難が困難だった様子が浮かび上がった〔写真1〕。

〔写真1〕周囲には飲食店や雑居ビルが立ち並ぶ
〔写真1〕周囲には飲食店や雑居ビルが立ち並ぶ
放火事件があった堂島北ビルは、JR大阪駅から500mほどの繁華街に立つ。3方向を建物に囲まれていた。火災翌日の2021年12月18日に撮影(写真:日経アーキテクチュア)
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 結果は、同庁と国土交通省が22年2月8日に開催した「大阪市北区ビル火災を踏まえた今後の防火・避難対策等に関する検討会」(座長:菅原進一・日本大学大学院教授)の初会合で報告された。

 同庁予防課の桒原崇宏課長補佐は、「検討会で対策を議論するうえで、まずは火災当時に何が起こっていたのかを整理する必要がある。今回のシミュレーションは原因調査を補足するかたちで実施した」と話す。

 事件があった「堂島北ビル」は、鉄骨鉄筋コンクリート造8階建てで、延べ面積は約700m2。容疑者(21年末に死亡)は4階に入居する診療所の待合室の入り口付近でガソリンをまいて火を付けたとみられている。消防研究センターは、調査を基に建物の内部の様子を3次元モデルで再現。当時の状況を大まかに把握するために、煙の充満や温度、一酸化炭素(CO)濃度の変化をシミュレーションした〔図1〕。

〔図1〕待合室、廊下、診察室のデータを確認
〔図1〕待合室、廊下、診察室のデータを確認
事件があった堂島北ビル4階の平面イメージ。診療所「西梅田こころとからだのクリニック」が入居していた(資料:総務省消防庁の資料に日経アーキテクチュアが加筆)
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 その結果、火元に近い待合室には出火からわずか20秒で煙が充満し、室内の温度は人が立った高さに相当する1.8mで400℃近くまで上昇した。煙はすぐに廊下や診察室に流入し、出火から1分もたたないうちに4階全体を覆った。これに伴い廊下の温度は約100℃、診察室の温度は約50℃まで上昇した〔図2〕。

〔図2〕出火から1分で奥まで煙が流入
〔図2〕出火から1分で奥まで煙が流入
火元近くの待合室に煙が充満した後、廊下や診察室に煙が流入した。フロア全体が煙に包まれるまでにかかった時間は1分足らずだ(資料:総務省消防庁の資料に日経アーキテクチュアが加筆)
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 煙が充満すると視界が悪くなり、歩行が難しくなる。シミュレーションでは視界の良しあしを示す指標である「見透かし距離」が、待合室では出火から1分後に、廊下と診察室では3分後に、ほぼゼロになった。