2021年12月17日に発生し、26人が亡くなった大阪・北新地の雑居ビル放火事件。総務省消防庁の研究機関である消防研究センターがシミュレーションをした結果、出火から1分足らずでフロア全体に高温の煙が充満するなど、避難が困難だった様子が浮かび上がった〔写真1〕。
結果は、同庁と国土交通省が22年2月8日に開催した「大阪市北区ビル火災を踏まえた今後の防火・避難対策等に関する検討会」(座長:菅原進一・日本大学大学院教授)の初会合で報告された。
同庁予防課の桒原崇宏課長補佐は、「検討会で対策を議論するうえで、まずは火災当時に何が起こっていたのかを整理する必要がある。今回のシミュレーションは原因調査を補足するかたちで実施した」と話す。
事件があった「堂島北ビル」は、鉄骨鉄筋コンクリート造8階建てで、延べ面積は約700m2。容疑者(21年末に死亡)は4階に入居する診療所の待合室の入り口付近でガソリンをまいて火を付けたとみられている。消防研究センターは、調査を基に建物の内部の様子を3次元モデルで再現。当時の状況を大まかに把握するために、煙の充満や温度、一酸化炭素(CO)濃度の変化をシミュレーションした〔図1〕。
その結果、火元に近い待合室には出火からわずか20秒で煙が充満し、室内の温度は人が立った高さに相当する1.8mで400℃近くまで上昇した。煙はすぐに廊下や診察室に流入し、出火から1分もたたないうちに4階全体を覆った。これに伴い廊下の温度は約100℃、診察室の温度は約50℃まで上昇した〔図2〕。
煙が充満すると視界が悪くなり、歩行が難しくなる。シミュレーションでは視界の良しあしを示す指標である「見透かし距離」が、待合室では出火から1分後に、廊下と診察室では3分後に、ほぼゼロになった。