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 築47年の3階建て鉄骨造の分譲マンションは、空き家というよりも廃虚と呼ぶにふさわしい外観だった〔写真1、2〕。滋賀県野洲市の野洲川西岸近くに立つ「美和コーポ」は、10年以上前から人の暮らしが途絶えている。建物は老朽化が激しい。車道に面した外壁が落下するなど危険な状態だ。野洲市は3月18日、10人の区分所有者に対して空き家等対策の推進に関する特別措置法(空き家対策特措法)に基づく解体を命令した。複数の所有者が存在する共同住宅に対して自主的な解体を命じる例は、全国でも珍しい。

〔写真1〕10年以上前から空き家に
〔写真1〕10年以上前から空き家に
滋賀県野洲市に立つ老朽化した空き家マンション「美和コーポ」。2018年6月の大阪北部地震や、その後の18年8月と9月の台風で外壁などが崩落して危険な状態が続いている。市は19年3月18日、区分所有者に対して自主解体を求める命令書を送付した(写真:日経アーキテクチュア)
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〔写真2〕台風で外壁が崩落
〔写真2〕台風で外壁が崩落
美和コーポ裏手の様子。パラペットを覆う外壁は18年9月の台風で崩落したとみられる。階段は踊り場が崩落しており、支えのない手すりが宙に浮く危険な状態になっている(写真:日経アーキテクチュア)
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 美和コーポは1972年に完成。全9室で延べ面積は408.12m2、敷地面積は198.85m2。管理組合は存在せず、管理は行われていない。そのため、築40年経過した2012年ごろから経年劣化が目立ち始めた〔図1〕。

2010年1月 滋賀県が区分所有者にアスベストの飛散防止措置を勧告
2012年11月 野洲市生活安全課へ「手すりがぶら下がっている」「階段が崩落している」との苦情が入る
2013年7月 野洲自治会より空き家管理不全情報報告書が提出される
2013年12月 不動産登記簿の所有者に改善指導書を送る
2014年1月 空き家対策協議を開催し、所有者のうち3人が出席。後日、所有者が手すりの撤去を実施
2018年6月 大阪北部地震により市道に面した壁が崩落
2018年7月 市が住所が判明している所有者へ写真と文書を送る。アスベストの分析調査を実施
2018年8月 市が空き家対策特措法9条に基づく立ち入り調査を所有者に通知
2018年9月 同法2条2項に規定する「特定空き家等」に認定。同法14条1項に基づく指導を行う
2018年10月 9月28日の台風24号でパラペットを覆う外壁が剥落したことを市が確認
2018年12月 同法14条2項に基づく勧告を行う
2019年3月 市が所有者に対して解体を命令する文書を郵送
2019年5月 5月7日が所有者による解体の期限
2019年11月 所有者による解体が行われなかった場合、市が行政代執行による解体に着手する方針
〔図1〕築40年辺りから経年劣化が目立ち始める
美和コーポを巡る経緯と今後の対応。19年5月7日までに所有者による自主解体が実施されなければ、行政代執行による解体が同年11月中旬に行われる予定だ(資料:野洲市の資料を基に日経アーキテクチュアが作成)

 市の指導によって所有者らが当初は、落下する危険のある手すりの撤去などを行っていた。しかし、自然災害の多かった18年は、大阪北部地震や台風によって崩落する部位が急に増えた。市は同年9月3日に美和コーポの立ち入り調査を実施し、同年9月18日に空き家対策特措法に基づく「特定空き家等」に認定した。