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 「市民の判断に従い、庁舎移転新築計画を白紙にする」。浸水想定区域に指定されている海沿いの地域に新庁舎を建設する計画の賛否を巡って2020年8月9日、鹿児島県垂水市で住民投票が実施された〔図1〕。計画では20年9月に造成工事、21年1月に庁舎建設工事に着手する予定だったが、反対票が賛成票を上回ったことを受けて尾脇雅弥市長は計画の見直しを決断。市は「今後の議論によっては庁内での検討からやり直す可能性もある」(企画政策課庁舎建設係)と説明する。

〔図1〕建設地の安全性が住民投票の争点に
(資料:垂水市)
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(資料:垂水市)
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建設予定だった垂水市新庁舎の完成イメージ。設計は宇住庵設計・NKSアーキテクツ・大隅家守舎共同企業体。新庁舎は延べ面積約5900m2で、免震構造を採用。鉄筋コンクリート造・一部鉄骨造、地上4階建ての計画だった。建設予定地は浸水想定区域に指定されていることから、市民からは庁舎の安全性を指摘する声があった

 現庁舎は本館と新館、別館の3棟から成る〔写真1〕。建築年数が最も古い本館が竣工したのは1958年で、耐震性能や建物の老朽化に伴い防災拠点としての機能が不十分だと問題視されていた。市は2012年に「垂水市庁舎建設等庁内検討委員会」を設置。17年には識者や市民代表などで構成する「垂水市新庁舎建設検討委員会」(委員長:鰺坂徹・鹿児島大学大学院教授)を設置し、新庁舎建設に向けて議論を進めてきた〔図2〕。

〔写真1〕現庁舎は1958年に竣工
〔写真1〕現庁舎は1958年に竣工
現庁舎は本館と新館、別館の3棟から成る。写真は本館。本館は竣工から60年以上が経過しており、耐震性能や建物の老朽化に伴い防災拠点としての機能が不十分だと問題視されていた(写真:垂水市)
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〔図2〕新庁舎の建設は2012年から検討開始
〔図2〕新庁舎の建設は2012年から検討開始
新庁舎の建設は2012年から検討されてきた。約8年かけて計画し、着工を目前に控えていたが住民投票の結果を受けて、尾脇雅弥市長は計画を白紙にした(資料:垂水市の資料を基に日経アーキテクチュアが作成)
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 市は、新庁舎の建設予定地として3カ所を候補地に選定。新庁舎建設検討委員会での議論やパブリックコメントの結果を踏まえて、予定地を現庁舎から西に約400mで錦江湾沿いに位置する錦江町旧フェリー駐車場用地に決めた。

 しかし、市民団体「市庁舎建設に関する住民投票条例制定を求める会」が建設予定地の安全性を指摘。建設予定地は洪水浸水想定区域(0.5~3m未満)に指定されていることから、「防災拠点としての機能が果たせない」と訴えた。同団体は19年11月、建設予定地の賛否を問う住民投票条例の制定を尾脇市長に直接請求したが、市議会本会議は同年12月に否決した。

 その後、市は計画を進めて20年6月に実施設計と予算を市議会で可決。計画通りに庁舎の建設を進めるために建設を推進する4468人が市庁舎移転条例の制定を請求したことを受けて20年7月に市議会臨時会が開催されたが、庁舎移転については全会一致で継続審査になった。

 市議会の判断を受けて尾脇市長は「市民の最終的な民意を確認し、同じ方向を向いて進めるべきだ」として、同日に庁舎移転新築計画の賛否を問う住民投票条例の制定を議会に提出し、全会一致で可決された。

 20年8月9日に実施された住民投票では8574人が投票(投票率68.83%)。賛成が4080票で反対の4424票を下回った。投票結果に法的な拘束力はないが、尾脇市長は計画の見直しを決めた。

基本構想の見直し必要か

 市は新庁舎建設の基本計画や基本設計の案がまとまるたびにパブリックコメントや住民説明会を実施してきた〔図2〕。庁舎建設係の川畑直紀主査は、「住民説明会で建設地の安全性についての質問が出たが、敷地のかさ上げや地盤改良工事の実施、浸水時でも免震機能を維持できる柱頭免震構造の採用によって安全性を維持できることを説明して納得してもらったと思っていた」と振り返る。

 計画では新庁舎建設の事業費は約42億8000万円。市は地方交付税措置が受けられる「公共施設等適正管理推進事業債」の起債を検討していたが、20年度中に実施設計に着手することが条件だった。

 新庁舎建設計画について、20年8月21日時点では見直しの方向性は定まっていない。川畑主査は、「国からの借り入れ起債が使えないとなると当初の基本構想のまま新庁舎を建設できるかどうかが分からない」と説明する。

 計画の見直しを受けて市は、まず現庁舎の耐震診断を実施する。庁舎機能を別の場所に移転することも視野に、現庁舎を継続して使用可能かどうかの検討を進める。