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 新潟県三条市の小中一体校に設置した可動床式プールの不具合を巡り、市が設計者の石本建築事務所(東京都千代田区)を相手取り、改修工事費など約3967万円を損害賠償として求めていた裁判で、東京高等裁判所が9月4日に市側の請求を棄却する判決を下した。市は9月13日、上告しない方針を示した。

 問題となったプールは市立嵐南小学校・第一中学校一体校にある〔写真12〕。不具合が発生したのは開校2年目の2015年6月。床面を動かして深さを調整するプールを水深60cmに設定し、小学校1年生と6年生の313人で授業を行ったところ、床の中央がたわんで正常に作動しなくなった。この不具合について、市は耐荷重設計のミスが原因だとして、設計者に注意義務違反や説明義務違反などがあったと主張していた。

〔写真1〕開校2年目で可動床にたわみ
〔写真1〕開校2年目で可動床にたわみ
(写真:日経 xTECH)
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(写真:三条市)
(写真:三条市)
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三条市立嵐南小学校・第一中学校一体校に設置された可動床式プール。可動床をせり上げてフラットな床面とし、人工芝を敷けば体育館としても利用できる。開校2年目に床材や可動システムに不具合が生じ、市と設計者が争った。プールは可動できるように改修済みだが、現在は床下に支持材を追加して使用している
〔写真2〕小中一体校で屋内プールを共有
〔写真2〕小中一体校で屋内プールを共有
三条市立嵐南小学校・第一中学校一体校は地上4階建て。鉄筋コンクリート造(RC造)、一部鉄骨造(S造)で、延べ面積は2万8509m2。可動床式プールは3階にある(写真:日経 xTECH)
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 市が新潟地方裁判所に訴えを起こしたのは17年2月。新潟地裁は19年3月に「委託契約上の債務不履行や不法行為は認められない」として市の請求を棄却した。市は、判決を不服として控訴したが、東京高裁は「原判決は相当で、控訴に理由がない」として一審判決を全面的に支持、9月4日に控訴を棄却した〔図1〕。判決文では、「(市は)その責任を設計者に転嫁しようとするものであり明らかに不合理。地裁判決は相当であって、本件控訴に理由はない」と記述し、市の姿勢を厳しく断じた。

〔図1〕プールの最大利用人数が争点に
2009年12月 三条市が「三条市立第一中学校区小中一体校建設基本設計および実施設計業務」の公募型プロポーザル実施要項を公告
2010年 3月 市が石本建築事務所を設計者に選定、設計業務等委託契約を締結契約締結後の会議で「室内プール25m、8コース」で合意
5月 石本建築事務所が作成した基本設計で14年度の最も多い生徒数を小学校5年生「161人」、中学校1年生「182人」とする
2011年 3月 石本建築事務所が基本設計を市に提出。同年9月に実施設計を提出。積載荷重は3000kgと設計図書に明記
2013年12月 学校校舎が完成
2014年 4月 校舎の供用開始、同年6月からプールの利用開始
2015年 6月 313人で波づくりの授業を実施したところ、プール床の中央にたわみが生じていることを確認
2017年 2月 市が石本建築事務所に対し、約3967万円の損害賠償を求める訴えを新潟地方裁判所に起こす
2019年 3月 18日に新潟地裁が市の請求を棄却。29日に市が東京高等裁判所に控訴
9月 4日に東京高裁が市の請求を棄却。13日に市が上告しない方針を示し、発注者の敗訴が確定
三条市の可動床式プールを巡る経緯。プールの利用人数を取り決めた議事録などが残っておらず、 市は暗黙の合意があったと主張した(資料:取材を基に日経 xTECHが作成)

 市教育委員会事務局施設管理係の阿部博文係長は、「棄却されたのは残念。上告しても契約違反を認められる可能性が低く、裁判の継続を断念した」と話す。一方、石本建築事務所の広報担当者は、「三条市との訴訟についてはコメントを控えている」と回答した。