全1057文字

 東日本大震災で吊り天井が大規模崩落したミューザ川崎シンフォニーホール(川崎市)を巡る訴訟が終結した〔写真1〕。復旧費約20億円の賠償を求め、所有者の川崎市が都市再生機構(UR)など8者を訴えていた裁判だ。裁判所が1審、2審とも原告側の請求を棄却したことを受け、市は11月20日、最高裁判所への上告を断念したと発表した。

〔写真1〕震度5強の揺れで大規模崩落
〔写真1〕震度5強の揺れで大規模崩落
天井が崩落したミューザ川崎のホール。吊りボルトが長短まちまちだった。川崎市の調査委員会は、荷重の集中によって破断した箇所を起点に、連鎖的に崩落したとみる(写真:川崎市)
[画像のクリックで拡大表示]

 2審の東京高等裁判所は11月7日、被告側の責任を認めず市の請求を棄却した1審判決(横浜地方裁判所2018年5月31日判決)を支持して、再び市の請求を棄却した。

 これを受けて、川崎市の福田紀彦市長は次のような談話を発表した。

 「震度5強程度の中規模地震だったにもかかわらず、大きな被害を受けた。それでもなお、建築に携わった者に責任がないという判決は、受け入れ難く、容認できない。しかし、上告したとしても有利な結果を得られる可能性が極めて低く、苦渋の決断ではあるが、上告を断念した」

音響効果を高めた天井が落下

 ホールは03年12月に完成。客席数は約2000席だ。音響効果を重視し、天井に厚さ8mmの繊維混入石こうボードを5枚重ねで用いており、1m2当たりの重さは約90kgだった。

 11年3月11日に発生した東日本大震災で、建物付近の地震計は震度5強の揺れを観測した。この揺れで落下した天井は、水平投影面積の54%。崩落時にイベントなどは開かれておらず、人的被害は出なかった。

 市は「震度6強の揺れを想定して設計してあった。崩落した天井には、震度5強の揺れに耐えられないという瑕疵がある」などとし、13年8月に8者を相手取って横浜地裁へ提訴した。原告側には同ホールを拠点とする東京交響楽団も加わった。

 8者とは、事業施行者で設計者のUR、施工者の清水建設、大成建設、安藤ハザマ、日東紡音響エンジニアリング(現・日本音響エンジニアリング)、オクジュー、設計や工事監理を担った松田平田設計、日東設計事務所だ。

 一連の裁判の争点は、建設当時の技術基準に照らし、崩落した吊り天井に違反があったかどうかだ。

 1審と2審の判決は、震災時点で天井に関する法令上の具体的な技術基準がなかった点を重んじた。震災後、国土交通省は「特定天井」(脱落によって重大な危害を生じる恐れがある天井)の技術基準である告示771号を14年4月に施行したが、ホールの完成時に基準はなかった。

 URは日経アーキテクチュアの取材に対し、「当機構の主張が認められたものと考えており、今後とも適正に業務を遂行してまいりたい」とコメントした。