スイス・チューリヒで、チューリヒ国際空港付属の複合施設「THE CIRCLE(ザ・サークル)」が11月5日に一部オープンした。山本理顕設計工場(横浜市)が設計を手掛けた。
発注者である空港運営会社Flughafen Zürichは、空港を核とする街づくりを計画し、その一環でスイス最大級の建設プロジェクトを進めている。設計者を選ぶコンペを2009年に実施、15年4月に着工した。
施設は地下2階、地上11階建て。環状道路と丘状の公園の間に位置し、弓なりの形をしている。延べ面積は約26万m2で、オフィスや店舗、ハイアット系の2つのホテル、2500⼈収容可能な会議施設、大学病院などが入る。空港に面するファサードは環状道路に沿って全体にカーブを描きながら斜めに張り出す〔写真1〕。
遠くから見ると1つの巨大な建物のようだが、実際は6棟に分かれている。棟の間に路地(ガッセ)や広場(プラッツ)を設けて連続させた。チューリッヒ旧市街をイメージしたものだ。公園側の外観は凹凸をつけ、いくつもの建物が集積したように見せた。山本理顕設計工場の山本理顕代表が目指した「小さな都市」のような姿は、公園側によく表れている〔写真2〕。
開業したのは公園や、施設中央の店舗で、オフィスも一部入居済みだ。他のエリアの工事はまだ続く。
新型コロナウイルスの感染拡大により、スイスでは20年春にロックダウン(都市封鎖)を行った。山本理顕設計工場のスタッフである妹尾慎吾氏は、「現場は動いていたが、外国から入ってこなくなった資材があり、工期の遅れにつながった」と言う。
スイスらしさを細い柱で表現
外観で目を引くのが、プレキャストコンクリートによる構造柱の細さだ。見付けは200mm。スイスらしさを「緻密さ」と捉えて表現した。
ガラスファサードにはドイツのジョセフ・ガートナー社の「CCF(Closed Cavity Facade)」というシステムを採用。フィルターを介した清浄な空気をダブルスキンの内部に送り込み、内部を正圧に保つ。外部からのほこりを入れない仕組みで、内部を清掃しなくて済む。ガラス面の多い建物では重要なポイントだ。
空港側の斜めのガラスファサードは、屋外側に日射遮蔽フィルムを挟み込んだ合わせガラスを採用。路地や公園側はブラインドを内蔵したタイプとした。これらは工場でユニット化。コンクリートスラブに取り付けたスチールの支持材に、ユニットを引っ掛ける形で施工した。
路地や広場にはガラス屋根を架け、庇のように建物から張り出すようにした。各棟は用途によって階高を変えているため、ガラス屋根の高さは場所ごとに違う。その屋根の段差は、非常時に路地や広場が避難経路となった場合の排煙の役割も果たす。