北海道大学と清水建設は共同で、既設コンクリート構造物の表面に含浸剤を塗布し、大気中の二酸化炭素(CO2)の吸収・固定化を促進する「DAC(ダック)コート」を開発した〔写真1〕。
含浸剤を塗ることで、一般のコンクリートに比べてCO2吸収量が1.5倍以上に増えるだけでなく、中性化による鉄筋の腐食を抑制し、鉄筋コンクリート(RC)構造物の耐久性を向上させる効果も得られる。5月30日に発表した。
CO2を吸収する性質があるアミン化合物を主成分とした含浸剤を、コンクリート構造物の表面に塗布するだけでいい。吸収したCO2とコンクリート中の水酸化カルシウムが反応し、炭酸カルシウムとしてCO2を固定する仕組みだ。
一般のコンクリートが固定するCO2は1m3当たり18kg。これに対して、含浸剤を塗ったコンクリートは同27~36kgのCO2を大気中から減らせる。
一般に、コンクリートにCO2を固定すると、中性化が進んで鉄筋が腐食する恐れがある。ただし、アミン化合物は防食作用を持っており、鉄筋の腐食速度を従来の50分の1まで抑制できる。
アミン化合物はほかにも、塩分に対する耐食性を有している。鉄筋表面への塩分付着を阻害し、一般のコンクリートと比べて約1.5倍の塩分濃度まで耐食性を維持する。
10年に1度、含浸剤を塗るだけで効果が得られる。含浸剤を塗布したコンクリートは、解体してもCO2を拡散せず、再利用できる。
一般的な含浸剤と同等のコスト
「コンクリートの生産段階でCO2を固定するなど、新設構造物を対象とした技術は今までもあった。対してDACコートは、既設の構造物に適用できる画期的な技術だ」。北海道大学大学院工学研究院の瀬戸口剛教授はこう話す。
今回開発した含浸剤は試薬段階であるものの、シラン系やフッ素系といった一般的な含浸剤と、ほぼ同等のコストで生産できる。
2024年には既設の大規模構造物に塗布する実証実験を始め、26年の実用化を目指す。まずはコンクリートの露出面積が大きいトンネルや橋脚など土木構造物に適用する方針だ。
清水建設技術研究所建設基盤技術センター革新材料グループの辻埜真人グループ長は、「道路用の路盤材などに使用する再生骨材にアミン化合物を噴霧すれば、CO2を固定できる可能性がある」と話す。
同社は新築の構造物によるCO2の吸収を狙って、コンクリートの生産段階でアミン化合物を混ぜることも視野に入れている。