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 建築研究所(建研)は、既存マンションが浸水した際に生じる共用部分の復旧費用と浸水対策の費用対効果を、典型的なモデル建物で試算した。建研住宅・都市研究グループの木内望主席研究監らが、9月に開催された日本建築学会の大会で発表した。翔設計(東京都渋谷区)と明海大学不動産学部の藤木亮介准教授が設計と研究に協力した。

 建研が試算に用いたのは、駅周辺などに立つ既存マンションを分析して設計した都心型モデルだ〔図1〕。浸水レベルは、内水氾濫を想定した浸水深30cmの「軽度浸水」、同50cmの「中度浸水」、外水氾濫を想定した同150cmの「重度浸水」とした。

〔図1〕地下階に電気室などがあるモデルで試算
〔図1〕地下階に電気室などがあるモデルで試算
試算に用いた都心型モデル。建築面積が567m2、延べ面積が6900m2、住戸数が65戸の、地下1階・地上14階建て店舗併用タイプ。地下階に電気室や受水槽ポンプ室、雨水貯留槽、機械式駐車場のピットがある(資料:建築研究所)
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 軽度浸水で浸水経路になるのは、1階のエントランスや開放廊下、駐車場、店舗の出入り口だ〔図2〕。浸水経路から入った水がエレベーターや管理人室に広がりながら階段を通じて地下階に流れ込み、受水槽ポンプ室、機械式駐車場の地下ピットが数センチメートル浸水する。浸水後の復旧費用を試算すると1900万円に上った〔図3〕。

〔図2〕中度浸水では公共排水が逆流
〔図2〕中度浸水では公共排水が逆流
浸水レベルごとの経路を矢印と番号で示す。中度浸水では公共排水が流れ込む雨水貯留槽が満水になり、点検口や排水口、配管貫通部などから逆流する経路が加わる(資料:建築研究所)
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〔図3〕1度の浸水で対策導入費用を回収できる
浸水程度 対策の導入費用(A) 対策なしの場合の復旧費用(B) 対策した場合の復旧費用(C) 対策なしと対策した場合の復旧費用の差額(B-C)
軽度浸水(浸水深30cm、床上10cm、浸水継続時間2時間) 39万円 1900万円 189万円 1711万円
中度浸水(浸水深50cm、床上30cm、同12時間) 1775万円 2800万円 0円 2800万円
重度浸水(浸水深150cm、床上130cm、同24時間) 3065万円 6100万円 450万円 5650万円
都心型モデルでの試算結果を抜粋してまとめた。いずれの浸水レベルでも1度の浸水で対策導入費用を回収できる。軽度浸水で対策した場合の復旧費用が中度浸水で対策した場合よりも高いのは、吸水土のうを積み重ねた隙間から水が多少流入することを見込んだため(資料:建築研究所の資料を基に日経アーキテクチュアが作成)

 中度浸水では、ドライエリアにある地下換気口からの流入と、公共排水があふれて雨水貯留槽が満水になることによる点検口などからの逆流が加わる。機械式駐車場の一部機器交換やエレベーター修繕の費用が増し、復旧費用は2800万円に達する。

 重度浸水では、店舗のガラスが壊れて手すり壁を越水する経路が加わる。この状態が24時間続くと、地下階全体が水につかる。建材・設備の交換が大量に加わることで、復旧費用は6100万円に膨れ上がる。