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建築設計者の働く環境は様変わりしている。雇用契約はその1つだ。人材派遣会社を通じて設計業務に就いた設計者が、大手建設会社とその設計子会社、派遣会社を訴えた裁判では、偽装請負が問題になった。(日経アーキテクチュア)

大手建設会社A社のプロジェクトで施工図作成業務に就いていた設計者が退職。その後、同社などを訴えた。設計者は人材派遣会社を通じてA社の設計子会社で働いていたが、就労環境が労働者派遣法に反する「偽装請負」だったとして「直接雇用のみなし規定」の適用を求めた(関連記事:日経アーキテクチュア2020年2月13日号12ページ「ニュース時事」)
大手建設会社A社のプロジェクトで施工図作成業務に就いていた設計者が退職。その後、同社などを訴えた。設計者は人材派遣会社を通じてA社の設計子会社で働いていたが、就労環境が労働者派遣法に反する「偽装請負」だったとして「直接雇用のみなし規定」の適用を求めた(関連記事:日経アーキテクチュア2020年2月13日号12ページ「ニュース時事」)
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 建設会社や設計事務所において、業務の一部委託が一般的に行われているのはご存じだろう。法律上、これは雇用契約ではなく、請負契約や委託(準委任)契約に該当するので、委託元は労働基準法の適用を受けず、また社会保険手続きも経ずに労働力を得ることができる。

 この契約形態の悪用が社会問題化したのが、いわゆる「偽装請負」だ。コスト削減を狙いとして、委託契約・請負契約の名目で別の会社が職場に人員を送り込み、実態としては契約先の指揮監督下で労働させる行為だ。今回解説する事件では、設計者を巡ってこの点が問題となった。

 概要を見ていこう。原告の設計者は2019年7月に人材派遣会社と労働契約を結び、大手建設会社A社の設計子会社が大阪市内に設けた作業所で、施工図作成業務に就くことになった。派遣会社は設計子会社から業務委託を受ける関係だった。

 ところが原告が職場に出社してみたところ、A社の工事課長から直接指示を受けるという就労環境だったことが分かった〔図1〕。

〔図1〕委託元の親会社から指示が出ていた
〔図1〕委託元の親会社から指示が出ていた
原告が置かれた就労環境。委託契約を使った実質的な「二重派遣」の状態だった(資料:判決文を基に日経アーキテクチュアが作成)
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