引退を前にした著名建築家が、事業承継先の設計事務所を訴えた。金銭トラブルの末、承継先に訴えられた建築家側が、商標のライセンス料を理由に反訴したのだ。その判決文が裁判所のウェブサイトで公表された。(日経アーキテクチュア)
今回取り上げる判決は、ある建築家が経営する設計事務所の事業承継を巡るトラブルだ。概要を説明しよう。裁判の原告は建築家A氏と、A氏が1971年に設立し、判決時も社長を務めるAアトリエの法人格だ。
裁判所が公開した判決文は原告や被告の名前を伏せているが、A氏について「昭和40年代から今日に至るまで、建築家として日本のみならず世界的に極めて高い評価を得ている」人物だと記している。
一方、被告となったのは2011年9月に設立された別の設計事務所(以下、新事務所)の法人格だ。
A氏は80歳を間近として、「個人の立場で好きな仕事だけをやりたい」と希望。これを受け所員たちが新事務所を立ち上げ、事業承継することになった。アトリエの事実上解体のため、26人いた所員の12人が退職。14人が新事務所へ移籍した。
新事務所はAアトリエが受託していた仕事を承継。A氏が商標権を持つロゴの使用も継続した。
A氏は新事務所の立ち上げ時から取締役を務めていたが、16年9月に辞任。この前後で金銭トラブルが起こった。