施設の改修計画を巡り、原設計者が著作権侵害を理由に裁判所へ工事禁止の仮処分を申し立てた事件で、裁判所は2022年11月、申し立て却下を決定した。建築物の著作権と改修を巡る論点を改めて解説する。(日経アーキテクチュア)
今回取り上げるのは、国際版画美術館(東京都町田市)の改修計画を巡り、日本建築家協会(JIA)元会長で建築家の大宇根弘司氏(大宇根建築設計事務所)が2021年4月、東京地方裁判所へ工事禁止の仮処分を申し立てた事案だ。相手方は施設の所有者であり改修を計画している東京都町田市だ。
国際版画美術館は市芹ケ谷公園で1986年に竣工した、地下1階・地上2階建て、延べ面積約7840m2の建物だ。町田市は2019年、この建物を含む公園の再整備を目的とする“芸術の杜(もり)”計画に着手した。これは美術館の建物内部の一部や庭園を生活道路とするものだった。
建物の原設計者である大宇根氏は計画について、「静謐(せいひつ)な空間が保たれなくなる」として異を唱えた。
東京地裁は22年11月25日、この申し立てを却下する決定を下した。大宇根氏側は即時抗告した〔図1〕。
設計者が改修計画に異を唱える構図は、これまで何度も争われてきた。だが、設計者側が改修を止められた例はない〔図2〕。