建て主が意匠設計事務所とその代表者、施工者に建て替え相当額を請求して争った欠陥住宅訴訟で、構造設計ミスが意匠設計事務所の代表者の「不法行為」と認定された。元請け設計者の責任を考察する。(日経アーキテクチュア)
建物の構造耐力不足が発覚、訴訟に発展した事案では、計算ミスを犯した構造設計事務所だけでなく、発注者と直接の契約関係にある元請け意匠設計事務所、その代表者が連名で訴えられるのが通例だ。
そして元請けの設計事務所が責任から逃れるのは難しく、設計事務所または代表の建築士が単独で責任を負う場合もあり得る。今回取り上げるのはそのケースだ。
概要を説明しよう。問題となった建物が計画されたのは15年以上前のことだ。
2004年ごろ、1組の親子が意匠設計者(後の被告)に自宅の設計を依頼した。母親、長男、次男の3人が建て主となり、3人の共有財産として戸建て住宅を建設するものだ。設計がまとまり、意匠設計者は05年9月に確認申請を実施。この年の12月、建て主らと意匠設計者が代表を務める設計事務所は設計・監理業務委託契約を締結した。
計画された建物は地下1階、地上3階建ての壁式鉄筋コンクリート造(WRC)で、延べ面積606.76m2。被告の業務報酬は1050万円だ。3人の建て主は建設会社に代金約2億1000万円で工事を発注、建物は06年12月に引き渡された。完了検査は受けなかった。
建設会社のみ和解して離脱
建て主らは引き渡しから約6年後の13年4月、設計事務所と代表者、建設会社を相手取り、約3億2000万円の支払いを求めて東京地方裁判所へ提訴した。原告側は独自調査により多数の瑕疵(かし)が見つかったとして、建て替え費用、慰謝料、調査費用、弁護士費用などを請求した。
原告側は、建物の構造には危険な瑕疵があると指摘。これらは設計や工事監理上の注意義務違反で生じたもので、住宅品質確保促進法における構造耐力上主要な部分の瑕疵であり、設計事務所の債務不履行にも当たると主張。1級建築士として設計・工事監理を行った代表者に不法行為責任、設計事務所に会社法350条(代表者の行為についての損害賠償責任)があると追及した〔図1〕。
建設会社は係争中に原告との和解が成立し、裁判から離脱(後に企業再生手続きを開始)。設計事務所は「建物に瑕疵はない」と主張して全面的に争った。
この裁判で東京地裁は19年3月29日、被告の設計事務所とその代表者に、補修工事費用など計約462万円の損害賠償を命じる判決を下した。請求額との開きは大きく、原告らは控訴した。