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公共建築物の新築事業を巡り、設計者が自治体に訴えられ、判決で実施設計料の2倍に相当する額の支払いを命じられた。課題として浮かび上がったのは、設計図書納品後の設計者の対応だ。(日経アーキテクチュア)

公共建築物の建設工事の入札前、応札予定者の質疑をきっかけに積算ミス騒動が巻き起こった。増額となった計画変更の議会承認を得るため、首長の発案で市と設計者は、設計者側が実施設計料の約2倍の和解金を支払うとする覚書(和解契約)を締結した。履行を拒否した設計者を自治体側が提訴した
公共建築物の建設工事の入札前、応札予定者の質疑をきっかけに積算ミス騒動が巻き起こった。増額となった計画変更の議会承認を得るため、首長の発案で市と設計者は、設計者側が実施設計料の約2倍の和解金を支払うとする覚書(和解契約)を締結した。履行を拒否した設計者を自治体側が提訴した
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 今回取り上げるのは、公共建築物の実施設計を発端としたトラブルだ。

 原告となったのは秋田県仙北市。市が田沢湖の湖畔に整備した公共の展示施設「田沢湖クニマス未来館」を巡り、市が設計者の渡辺佐文建築設計事務所(秋田市)を訴えた事案だ〔写真1〕。

〔写真1〕問題となった「クニマス未来館」
〔写真1〕問題となった「クニマス未来館」
田沢湖畔に完成した「田沢湖クニマス未来館」。設計者は渡辺佐文建築設計事務所、施工者は寺沢工務店・瀧神巧業JVだ(写真:池谷 和浩)
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 判決に至る経緯は複雑だ。市は2013年11月に指名型プロポーザル方式で設計者(後の被告)を選定。15年4月に実施設計の業務委託契約を締結し、同年11月末に設計図書の納品を受けた。だが、施工者を決める一般競争入札を公告したところ、応札予定者の質疑により積算ミスの可能性が浮上、市は入札を中止した。

 市は設計金額に基づき、建物の工事費予定額を約2億3000万円として16年度の事業予算に計上していた。だが、設計者に質疑を反映した工事内訳書を再納品させたところ、工事費が約2億7000万円に膨らむことが判明した。

 なお、増額要因で最も大きかったのは見積もり掛け率に関する計算違いで、約3000万円。次いで木工事施工量の計算違いで、約1000万円だった。

和解金額は実施設計料の2倍

 市と設計者は協議の上、建物の工事費予定額を約2億5000万円とする計画案をまとめた。当初より規模を縮小し、開口部部材などをグレードダウンした上で、さらに工事費を約2000万円増額するものだった。

 規模を縮小し、仕様をグレードダウンした上に工事費を当初より増額するこの変更計画について、市長は「このままでは市議会の納得が得られない」と判断した。そこで設計者に対し、次のように通告した。

 「市側で作成した覚書を送付する。取り交わさずに訴訟で争うか、署名・押印して損害賠償を約束するか、判断して欲しい」

 この「覚書」が裁判に発展した。設計者が積算ミスによるスケジュール遅延に関する損害を賠償することを約束。さらに、和解金として設計者が2102万円を払うというものだ。この内訳は、(1)実施設計料1022万円の返上、(2)外構工事費1080万円の負担、だった。

 市長は当初の積算ミスにおける増額が約4000万円となったのを理由に、「約半額を設計者が負担するのであれば、議会の承認が得られる」と考えた〔図1〕。

〔図1〕市長の発案で締結した覚書
〔図1〕市長の発案で締結した覚書
設計者と市が締結した覚書。設計者側が積算ミスを認め、遅延損害に加え、実施設計料相当額、外構工事費の一部を賠償するという内容だった(資料:渡辺佐文建築設計事務所)
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 設計者はこの際、覚書の取り交わしを選択した。それを受け、議会は計画変更や予算増額を承認。施設は17年7月にオープンした。

 設計者は議会承認後、「覚書は理不尽で、無効だ」と主張し続け、履行を拒否。市は同年9月21日、履行を求めて秋田地方裁判所大曲支部へ設計者を提訴した〔図2〕。

〔図2〕積算ミス騒動で入札中止に
2015年4月 秋田県仙北市と設計者が実施設計図書作成業務委託契約を締結。委託料は約1022万円だった
11月 設計者が実施設計図書を納品。施設における建物の設計金額は約2億3000万円だった。市は造成工事、展示工事を加えた合計約3億6000万円を、16年度事業予算に計上した
16年6月 市が施工者を決める一般競争入札を公告。だが応札予定の建設会社からの質疑により積算ミスの可能性が浮上、市は入札を中止した。質疑を反映したところ、建物工事費は約2億7000万円となることが判明した
8月 市と設計者は協議の上、規模を縮小したり窓のグレードを下げたりして工事費を2億5000万円とする計画案をまとめる。建物工事費は増額となるが、造成・外構工事を減額して当初予算に合わせる計画だった。だが当初案の見直しについて市議会では否定的な意見が多く、設計者への責任追及を求める声が多数を占めた。施設整備事業は国の補助金約2200万円を前提としたもので、執行が遅れれば事業が頓挫する可能性が浮上した
9月まで 市長の発案で「設計者が2102万円を支払う」とする覚書が市と設計者の間で締結された。議会は計画変更を承認。2度目の入札が実施され、施工者が決まった
17年7月 当初計画より2カ月遅れて施設がオープン
9月21日 設計者が覚書を履行しないことから、市は設計者を相手取り、秋田地方裁判所大曲支部に提訴した。請求額は約2149万円。覚書に記された和解金に、71日間分の遅延損害金約47万円を加えた
20年1月17日 1審判決。判決は市側の請求全部を認めた。設計者は控訴した
事件の経緯。積算ミス騒動で入札はいったん中止となり、オープンが71日間遅れた(資料:判決文を基に日経アーキテクチュアが作成)

 この際、覚書に加え、施設オープンが予定より71日間遅れたことを理由として、遅延損害金約47万円も請求に加えた。

 秋田地裁大曲支部は20年1月17日、市の請求通り、設計者に2149万円の支払いを命じる判決を下した。設計者は控訴した〔図3〕。

〔図3〕設計者は「暴利行為だ」と抗弁したが、裁判所は認めず
〔図3〕設計者は「暴利行為だ」と抗弁したが、裁判所は認めず
(資料:判決文を基に日経アーキテクチュアが作成)
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