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障害者グループホームの運営は、区分所有者の「共同の利益に反する行為」か。マンション2戸分を賃貸し、グループホームを運営していた社会福祉法人が、管理組合に訴えられた。区分所有法に基づく異例の裁判だ。(日経アーキテクチュア)

15階建て分譲マンションの2戸分を賃貸して運営していた障害者グループホームに、運営の危機が迫った。マンションは共同住宅特例により消防用設備の設置義務を免れていたが、消防署の指摘により、特例維持にはグループホームとして使用されている住戸に措置を取ることが必要と判明したのだ。管理組合は退去を求めた
15階建て分譲マンションの2戸分を賃貸して運営していた障害者グループホームに、運営の危機が迫った。マンションは共同住宅特例により消防用設備の設置義務を免れていたが、消防署の指摘により、特例維持にはグループホームとして使用されている住戸に措置を取ることが必要と判明したのだ。管理組合は退去を求めた

 区分所有法は個々の区分所有者や占有者について、「区分所有者などの共同の利益に反する行為をしてはならない」と規定している(6条1項など)。これに違反した場合、他の区分所有者は行為の停止などを請求できるとされる。さらに管理組合などは集会決議に基づき、訴訟を提起できる(57条1項など)。

 今回取り上げるのは、この法規定に基づくマンション管理組合と事業者との争いだ。まず、概要を説明しよう。被告となったのは大阪市の社会福祉法人。舞台となったのは同市に立つ地下1階・地上15階建ての分譲マンションで、判決時点で築34年だ。1階9戸分は店舗で、2階以上に全251戸の住宅を配していた。原告はこのマンションの管理組合だ。

 社会福祉法人は2003年ごろからこのマンションの2戸分を賃貸し、障害者グループホームとして入居者を受け入れていた。判決時点で6人の入居者がいた。

 グループホームの開設当時、管理組合は黙認状態だったとみられるが、16年に問題が起こった。所轄の消防署から違法状態にあると指摘を受けたのだ〔図1〕。

〔図1〕グループホーム開設から10年以上たっていた
〔図1〕グループホーム開設から10年以上たっていた
事件の概要。消防署の指摘を受け、管理組合は「グループホーム禁止」を含む管理規約変更を実施。すでに入居済みの社会福祉法人には運営停止を求めた(資料:判決文を基に日経アーキテクチュアが作成)
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 グループホームが設置されている場合、建物は特定防火対象物となり、定期点検報告義務を負う。グループホームとして使われている2戸に、自動火災報知設備(以下、火報)を設置する必要も生じた。

 マンションは店舗併用なので、複合用途防火対象物(消防法8条1項、消防法施行令別表第1の16項)に該当する。原則として消防法施行令3節(設置および維持の技術上の基準)により、消防用設備などの設置義務を負う。だが大阪市は所定の要件を満たす場合に限り、「共同住宅特例」として消防法施行令3節を適用しないと定めている。マンションはこの特例により、消防用設備などの設置義務を免れていた。

 管理組合は16年6月、書面で社会福祉法人に退去を要請。16年11月には通常総会を開き、管理規約に規定を追加する決議を行い、民泊禁止、シェアハウス禁止、グループホーム禁止とした。マンションが特定防火対象物となるのを防ぐ狙いだ。

 社会福祉法人と管理組合は民事調停に入ったが折り合わず、管理組合は18年4月、臨時総会で訴訟着手を決議。社会福祉法人を相手取り、グループホーム運営停止などを求め、大阪地方裁判所へ提訴した。