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東日本大震災で半壊したゴルフ場のロッジ棟を巡り、設計・施工を手掛けた建設会社が建設時における「不法行為責任」を追及された。裁判所が不法行為責任を認定する際の流れを解説する。(日経アーキテクチュア)

東日本大震災で半壊したゴルフ場のロッジ棟を巡り、被害から約4年後にゴルフ場側が建設会社を提訴した。ゴルフ場は補修せずに解体を決断していたが、後に実施した複数の調査により建設会社の過失が判明したという。すでに解体済みの建物について、損傷原因が建設会社の過失によるものだったかが争われた
東日本大震災で半壊したゴルフ場のロッジ棟を巡り、被害から約4年後にゴルフ場側が建設会社を提訴した。ゴルフ場は補修せずに解体を決断していたが、後に実施した複数の調査により建設会社の過失が判明したという。すでに解体済みの建物について、損傷原因が建設会社の過失によるものだったかが争われた
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 不法行為責任(民法709条)が建築物の設計・施工者に適用されるのはどのような場合か、最高裁判所が判断の枠組みを示してから約14年が経過した。様々な裁判例が積み上がってきている。今回取り上げる事例は、この枠組みが実際のところ、どのように適用されているのかを示すものとして紹介したい。

 ここで言う最高裁判例は、1つが「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵(かし)」が建物に存在する場合、契約関係にない間柄(住宅の買い主から見た設計者・施工者など)でも不法行為責任は問えるというもの(最高裁2007年7月6日判決)。もう1つは「放置するといずれは居住者などの生命、身体または財産に対する危険が現実化することになる場合」、被害がなくとも建物の基本的安全性を損なう瑕疵に該当するというもの(最高裁11年7月21日判決)だ。

東日本大震災で大きく損傷

 概要を説明しよう。問題となった建物は栃木県内のゴルフ場に立った2階建てのロッジ棟だ。この建物は設計・施工費約2億4000万円をかけ、01年8月末に完成した。

 完成から約10年後の11年3月11日、東日本大震災によりゴルフ場は「少なくとも震度6弱、震度6強の可能性も高い」(判決文の事実認定より)という揺れに見舞われた。ロッジ棟は構造躯体こそ無事だったものの大きく損傷を受け、経営者は解体を決断した。この後、ゴルフ場の経営は厳しくなり、経営者は12年1月末に民事再生手続きへ追い込まれた。建設会社への責任追及も中断した。

 経営者が改めて裁判手続きに着手したのは15年11月。ロッジ棟の被害は設計・施工を担当した建設会社の過失によって生じたものだと主張し、東京簡易裁判所へ調停を申し立てた。調停が不成立となり、経営者は16年2月14日、建設会社を相手取り、東京地方裁判所に提訴した。請求総額は約4億円。不法行為責任に基づき、解体および建て替え費用3億円、逸失利益3億円などの損害の一部に当たる〔図1〕。

〔図1〕第1次調査から約4年後に裁判手続きを開始
1976年原告が栃木県内にゴルフ場を開場
2001年3月ゴルフ場でクラブハウス棟が完成。原告が被告の建設会社に建設を依頼したもので、平屋建てだった
2001年4月原告がクラブハウス棟の隣に2階建てのロッジ棟を計画、被告に設計を依頼した。被告はクラブハウス棟建設の際の地質調査を踏まえ、直接基礎を選択する案をまとめた。ロッジ棟は8月末に完成した
2011年3月11日東日本大震災が発生。ゴルフ場は震度6弱とみられる揺れを受けた。クラブハウス棟には大きな問題は生じなかったものの、ロッジ棟が損傷した
2011年8月から11月原告が1級建築士事務所に依頼したロッジ棟の損傷概況に関する報告を受けた。原告はこの報告に基づき、建設会社に損害賠償を請求する内容証明付き郵便を送付。またロッジ棟を解体し、ロッジ棟の敷地の地盤調査を実施した。建設会社側はこの時点で損害賠償に応じなかった
2012年から14年原告が東京地方裁判所により民事再生手続き開始の決定を受ける。後に原告が経営するゴルフ場は訴外の別資本のグループ企業となった。別資本の傘下に入ったことを受け、原告は本件について法的責任が追及可能かを改めて精査した
2015年3月原告側が2度目の地質調査を実施、建設会社側の構造設計1級建築士が立ち会った。この後、原告側は11月に東京簡易裁判所へ調停を申し立てたが、16年2月に不成立となった
2016年2月原告が建設会社を相手取り、東京地裁に提訴
2019年3月13日原告の請求を棄却した1審判決が下る。原告は東京高等裁判所へ控訴したが棄却を受け、最高裁判所へ上告した
事件の概要。震災直後に建設会社と話し合いが持たれたが、その後に原告のゴルフ場の経営が傾いて時間が経過してしまった(資料:取材と判決文を基に日経アーキテクチュアが作成)

 ロッジ棟は揺れで外装のALCパネルが損傷、天井が落下した。建物は最大約90mmの不同沈下により床が傾斜した。裁判では、ロッジ棟に「建物の基本的な安全性を損なう瑕疵」があったかが争点となった。