建築物着工床面積の不振は2月の時点で既に鮮明となっていた。そこに襲いかかったのが新型コロナウイルスだ。コロナ・ショックによる景気後退で、2020年の建築需要は大きく落ち込む恐れが出てきた。(日経アーキテクチュア)

新型コロナウイルスの感染拡大で、経済活動が停滞している。内需の柱である個人消費と民間設備投資が大きく落ち込めば、日本経済は深刻な景気後退に陥る恐れがある。これまで好調だった建設市場も、2020年後半から一気に転落しかねない。
08年9月のリーマン・ショックでは、当時の実質GDP(国内総生産)で見た経済成長率が09年にマイナス5.4%となるなど、経済状況が急速に悪化した。民間建設投資は08年度の31兆5000億円から09年度の25兆円へ、実に2割も減った。
では、コロナ・ショックはどうか。そもそも19年の建築需要(建築物着工床面積)は店舗が前年比18.1%減、工場が12.9%減、事務所が3.5%減といずれも減少していた。同年10月の消費増税の影響もあり、建設市場には陰りが見え始めていた。
そこに、外出自粛や休業要請で経済活動が大幅に制限され、個人消費が影響を受けた。GDPの50%以上を占める家計消費が落ち込んでいる。今後、企業の業績悪化と設備投資の大幅な減少につながっていくだろう。
終息時期は記事執筆時点で見通せないため、正確に予測するには限界があるが、仮に20年6月末に最悪期を脱し、7~9月期にほぼ終息すると仮定してサトウファシリティーズコンサルタンツが試算したところ、20年の建築物着工床面積は前年比23%減の9840万m2となった〔図1〕。
4月末までの経済状況を踏まえつつ、リーマン・ショック時のGDPを参考に、経済活動の抑制による景気の悪化を見込んで算出した。
これは、リーマン・ショック後の09年の数値を下回る低水準だ。以降では、リーマン・ショックとの比較を通して、コロナ・ショックの建築需要への影響を詳しく考察する〔図2〕。
工場の大幅な需要減は不可避
まずは店舗。この数年、ほぼ一貫して着工床面積が減少し続けてきたが、20年はさらに前年比33%減の290万m2に落ち込むと予測する。コロナ・ショックによる景気後退、インバウンド需要の急減、EC(電子商取引)の拡大などを踏まえた〔図3〕。
懸念材料は、企業の資金繰りの急速な悪化。リーマン・ショック後には3~4カ月で中小企業の資金繰りが大幅に悪化した。今回も売り上げの大幅減が長期化すれば、倒産が急増する恐れもある。ただし、事態が早期に終息すれば、消費は比較的早く回復する可能性も十分にある。
工場はどうか。景気後退や輸出の落ち込みを考慮すると、工場への設備投資は今後、さらに急減する公算が高い。このため20年の着工床面積は、前年比36%減の550万m2と予測する。工場についてはこれまで老朽化による建て替え需要などが顕在化して堅調に推移していたが、設備投資の先延ばしや凍結に踏み切る企業も出てきている。
リーマン・ショック後の09年、工場の着工床面積は前年比51%減もの大幅な落ち込みだった。今回は、中国経済の減速や、終息のめどが立たないことなど、世界経済の先行き不透明感が強く、製造業の業績をさらに悪化させる外部要因が多い。大幅な需要減は不可避だろう。