建て込んだ立地での高層建築物の計画で、反対住民側が中傷めいた垂れ幕や横断幕を掲げた。だが事業者側が名誉毀損を理由に掲示物の撤去、慰謝料を求めた裁判は、1審、2審とも事業者側敗訴に終わった。(日経アーキテクチュア)
街中を歩いていて、「建設反対」の横断幕や垂れ幕を見かけた人は少なくないのではないか。高層マンションが建つ場合、近隣住民にとっては日影、通風、プライバシーなど影響は少なくないだけに、反対運動の一環として掲示されているものだ。
反対運動を受けた事業者側が、こうした掲示物について裁判を争った例は少なくない。今回取り上げる事件はその1つだ。
概要を見ていこう。訴えたのはマンションの設計・施工を担当する建設会社と、建築主の不動産会社の事業者2者だ。相手方はこのマンション用地に隣接する敷地に立つ、7階建てマンションの管理組合だった。
事業者側は用地を取得後、9階建てマンションを計画。所要の近隣説明を実施した。計画を聞き及んだ管理組合は、マンションの1室のベランダに反対の意を示す垂れ幕と横断幕を掲げた。次のような文言だ。
「建設会社、不動産会社は、民泊用マンションを隠ぺい」
「想いを壊し。心を潰す。」
2つ目の文言は、建設会社が広告に使っているコピーをもじったものという。事業者側は管理組合を相手取り、名誉毀損を理由として、不法行為責任に基づく慰謝料550万円の支払い、垂れ幕や横断幕の撤去を求め、大阪地方裁判所に提訴した。
管理組合は全面的に争い、大阪地裁は2020年2月28日、事業者側の請求を棄却する判断を下した。事業者側は大阪高等裁判所へ控訴したが、大阪高裁は20年9月10日、1審判断を維持して控訴を棄却する2審判決を下した。今回取り上げるのはこの2審判決だ。すでに判決は確定している〔図1〕。