札幌市の再開発計画を巡る住民訴訟で、中核となる建築計画に駐車施設の付置義務に反すると指摘する判決が下った。法令違反を内包した再開発計画には、自治体による補助金支出が認められない可能性がある。(日経アーキテクチュア)
設計事務所が再開発事業に関わる機会が増えている。だが万が一、再開発事業において設計内容に法令違反が見つかった場合、その建築物の着工が危ぶまれるだけでなく、事業全体が頓挫する可能性すらある。今回はそんなリスクを考えさせる事案を紹介しよう。
問題となったのは札幌市で2015年度に始まった「南2西3南西地区第一種市街地再開発事業」。22年の完了を目指している。対象区域は札幌駅前通と狸小路商店街が交差する繁華街で、面積は約0.6ヘクタールだ。
地権者らで再開発組合を組成し、既存建物を除却、高さ約122m(判決文に基づく)の大型ビルを建設して完成後に権利変換する計画だ。ビルの周辺は市民が自由に利用できる広場などとして整備し、新たな交流を創出するのが狙いだ。この地区は耐震化が遅れており、建て替えで防災性向上も期待できる。市はこの計画について、再開発組合に対し総額約64億円の補助金支出を予定しており、事業初年度の15年度に約1億円を支出した。
周辺住民である原告は、この再開発におけるビルの建築計画について、「ビルの駐車施設付置義務が満たされておらず、違法だ。違法な事業の推進のための補助金の支出は『公益上必要』とは認められない」と主張。市を相手取り、補助金支出を差し止めるよう求めて、16年6月24日、札幌地方裁判所に提訴した〔図1〕。
2013年 | 札幌市が本件に関係する都市計画を決定 |
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2015年 | 市が問題となった再開発組合の設立を認可 |
2016年 3月 | 原告が札幌市監査委員に対し、補助金支出を差し止めを求めて住民監査請求を実施。約2カ月後に棄却された |
2016年 6月24日 | 原告が市を相手取り、札幌地方裁判所に提訴。再開発計画の中心事業であるビルの建築計画に駐車場法違反があり、法令違反を含む再開発計画への補助金支出は自治体の裁量権を超えると主張した |
2018年 3月27日 | 1審判決。判決は建築計画がこのまま進めば条例違反となるとしたものの、確認申請前なので判決後に計画変更される可能性があり、裁判時点では自治体における裁量権の逸脱乱用があるとまでは言えないとして請求を棄却した |
2018年12月 | 市が「建築物における駐車施設の付置などに関する条例」を改正。施行日は19年1月1日 |