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新型コロナ感染症は今も流行収束の状況には至っていない。検温や手指消毒、感染者が発生した場合の休業補償など「新しい日常」にはコストがかかる。こうした増額費用を誰が負担するかが問題だ。(日経アーキテクチュア)

今後の新規契約では新型コロナ対策を見込んだ積算も欠かせない。写真はイメージ(写真:池谷 和浩)
今後の新規契約では新型コロナ対策を見込んだ積算も欠かせない。写真はイメージ(写真:池谷 和浩)
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 今年は新型コロナ対策に振り回される1年となりそうだ。こうした想定外の事態では、最終的な代金決済時にトラブルが起こりやすい。今回は施工における元請けと下請けの関係(元下関係)に注目して解説したい。

 元請け人は取引において優越的な地位にあることから、下請け人を保護する枠組みが存在する。まず現場で新型コロナ感染者が発生、元請け人が対策のために工事を中止・延長しない場合、下請け人は書面をもって工期延長を求められる。これは国の中央建設業審議会(中建審)が使用を勧告している「建設工事標準下請契約約款」(以下、標準下請け約款)の19条だ。

 なお合理的な理由なく元請け人の一方的な都合により、下請け人から要求された工期延長など必要な契約変更を行わない場合は、建設業法19条2項違反となる。これは国土交通省の「建設業法令遵守ガイドライン(第6版)」による法解釈だ〔図1〕。

〔図1〕国土交通省の「建設業法令遵守ガイドライン」
〔図1〕国土交通省の「建設業法令遵守ガイドライン」
契約条項の見直し例。請負契約や設計・工事監理契約において、見直しの際に基準となる点を明確化。国土交通省は2020年9月にガイドラインを改定。著しく短い工期の禁止など現場待遇の改善も要請した(資料:国土交通省)
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標準約款では「元請け負担」

 感染拡大防止のためには、工期を延長する、作業者に数日休んでもらうといった措置も必要だ。次の焦点は休業補償や機材のリース代など、対策における増加費用は誰が負担するかだ。

 前出の標準下請け約款18条3項には、元請負人が工事を中断した場合は、工事続行に備えた工事現場の維持費、作業員、建設機械器具の保持費用など「施工の一時中止に伴う増加費用を必要とし、または下請負人に損害を及ぼしたときは、元請負人がその増加費用を負担し、またはその損害を賠償する」とある。

 下請け人は増加費用を自社が負担しなければならないと思い込みがちだ。改めて契約書を確認してほしい。工事の発注者と元請け人との関係とは違い、元下関係では「元請け負担」となる場合がある。

 今後の契約に当たっては、標準下請け約款を用いるか、同18条3項と同様の条項があるかを確認したい。