自治体が設計業務委託契約を解除、前払い金の一部返還と違約金支払いを求めて設計者を訴えた裁判で、設計者側が敗訴した。設計者が「債務不履行」と見なされた理由は何だったのか。(日経アーキテクチュア)
今回取り上げるのは、広島県尾道市が、石上純也建築設計事務所(東京都港区、以下、設計者)との契約を解除し、提訴した裁判の1審判決だ。事件は市が発注した「千光寺公園頂上エリアリニューアル工事」の設計を巡るもので、日経アーキテクチュア既報の通り、1審で設計者が約1040万円の支払い命令を受けたことが話題を呼んだ。
なぜ設計者側がこうした厳しい判決を受けたのか、今回は過去の裁判例を踏まえて解説したい。
設計者の反訴は棄却
概要を見ていこう。本件は2016年に計画が始まり、市は公募型プロポーザル方式で設計者を選定。17年1月に基本設計および実施設計の業務委託契約を締結した。
市側は総事業費を3億円から3億5000万円と見込んでいたが、設計者の提案はこの条件を満たせなかった。また、結果的に設計者は期日までに成果物を完成させられなかった。これを理由として、市は設計者に契約解除を通告した。
市は18年10月、設計者を相手取り、広島地方裁判所尾道支部へ提訴した。請求額は約1040万円。前払い金1440万円のうち720万円の返還と、違約金320万円の合計額だ。
設計者側は「市の全体のプログラムは曖昧で、予算も決められていない状況で設計内容・予算について協議を進めていた」ことが理由だと主張。計画中止までの出来高報酬などを請求する反訴を起こして全面的に争ったが、広島地裁尾道支部は21年5月27日、反訴を棄却、市側の契約解除を是認する判決を下した。設計者は控訴した〔図1〕。