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欠陥設計はなぜ起こった

 スロープ部分は建物本体に接する独立構造となっていた。設計変更が3度にわたって繰り返された結果、完成時にはS造であることには違いないものの、建物本体がラーメン構造、スロープ部分がブレース付きのラーメン構造(以下、ブレース構造)という異なる構造形式となった。建物本体とスロープを結んでいたのはガセットプレートのみで、スロープは地震時にガセットプレートが破断したことで崩落した。

 構造設計事務所Aによる当初の構造計画(A案)は、建物本体とスロープ部分をそれぞれS造のブレース構造とし、2つの構造をガセットプレートで結んで、さらに水平リブプレートで補強する構成となっていた。

 だが、変更設計を引き受けた構造設計事務所Bが構造計算で想定した構成(B案)は、建物全体をラーメン構造とし、スロープ部分と建物本体部分は床スラブで一体化するものだった。

 ここで、構造設計事務所AとBの間に認識の食い違いが生じた。2つの構造物の接合方法を曖昧にしたまま、Aはスロープ部分にブレースを加えるよう要望し、反映させた。

 コミュニケーションを欠いた状態で変更を続けた結果、A案、B案のどちらでもない、危険性を内包した建物が完成してしまった〔図34〕。

〔図3〕発注者の特命で構造設計を変更
〔図3〕発注者の特命で構造設計を変更
問題の店舗の設計の流れをフロー図で見る。2002年1月9日の打ち合わせまで、発注者は構造設計の変更を構造設計事務所Bに依頼したことを、意匠設計事務所と構造設計事務所Aに知らせなかった。打ち合わせの後、Bが構造計算書を作成。構造設計事務所Aがこれを踏まえて構造図をまとめた(資料:取材を基に日経アーキテクチュアが作成)
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〔図4〕事実は判明したか
〔図4〕事実は判明したか
東京地裁判決が事実認定した設計段階での問題点。隣り合う2つの構造物にラーメン構造とブレース構造という異なる形式を用いたことで、特に上層で変位差が顕著になったとみられる(資料:判決文を基に日経アーキテクチュアが作成)
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 同じ耐震構造でも、ラーメン構造は揺れた際の応答変位が比較的大きいのに対し、ブレース構造は同じ揺れであればラーメン構造より変位が小さくなる傾向がある。

 本件ではさらに、柱脚部分を「ベースパック工法」(特殊座金などを用いて基礎と柱の密着度を高める工法)から一般的に用いられる工法に変更されており、より応答変位が大きくなりやすくなっていた。