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同じ造成地に立つ複数の戸建て分譲住宅が不同沈下し、集団訴訟に発展した。売り主の不動産会社は「近隣工事の影響だ」と主張したが、裁判所は基礎選定に問題があったとして慰謝料を含む高額賠償を命じた。(日経アーキテクチュア)

7戸の分譲住宅が一様に南側へ傾斜、不同沈下するトラブルが起こった。不動産会社は住民の責任追及に対し、南側付近で進んでいた造成工事の影響が疑われると反論。裁判に発展した。住宅は工事の際にある程度の地盤改良を実施していたが、問題の土地は改良体の下にも腐植土層がある軟弱地盤だった
7戸の分譲住宅が一様に南側へ傾斜、不同沈下するトラブルが起こった。不動産会社は住民の責任追及に対し、南側付近で進んでいた造成工事の影響が疑われると反論。裁判に発展した。住宅は工事の際にある程度の地盤改良を実施していたが、問題の土地は改良体の下にも腐植土層がある軟弱地盤だった
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 建物の不同沈下が判明した直後の対応は大変難しい。沈下の原因次第では責任の所在が異なり、沈下が進行する可能性もあるからだ。

 今回取り上げるのは、被告となった不動産会社A社が販売した一群の戸建て分譲住宅が不同沈下し、集団訴訟に発展した事案だ。

 問題の分譲住宅群は神奈川県伊勢原市に立地、7区画から成る。A社は2008年3月にこれらの土地に木造2階建ての戸建て住宅を建設、同年9月に分譲開始した。

 着工前に実施したスウェーデン式サウンディング(SS)試験において、「自沈層」(貫入ロッドが追加荷重なしで沈み込むレベルの軟弱層)が見つかっており、A社は最長で深さ3.25mまで柱状改良し、さらに各住宅にベタ基礎を採用した。販売価格は土地・建物込みで2200万円から2800万円程度だった。

 引き渡しから約5年後、「ドアの立て付けが悪くなった」という住民のクレームをきっかけに、7戸の不同沈下が表面化した。A社が各戸の傾斜を測定したところ、一様に南側に向かって沈下していることが判明した。沈下量は最大で75mmだ。南側に位置する近隣の土地では、12年ごろから造成工事が実施されていた。

 住民側の責任追及に対し、A社は自社の責任を否定。近隣工事の影響が疑われるという考えを示し、この工事を実施した事業者に費用を請求すべきだと主張。「不同沈下の原因が当社にあると考えるなら、住民側が立証する必要がある」と通告した。

 7戸の住民はA社を相手取り、14年3月までに損害賠償を求めて東京地方裁判所へ提訴した。請求内容は是正費用や慰謝料などだ〔図1〕。

〔図1〕柱状改良では不同沈下が抑えられず
2008年 3月 被告の不動産会社が本件土地(7区画)を取得。建築計画の過程で実施したスウェーデン式サウンディング試験により、自沈層が存在する軟弱地盤であることが判明した
  6月 被告が本件土地の地盤改良工事に着手。最大で3.25mの深さまで柱状改良を実施した。その後、各区画に木造2階建ての戸建て住宅を建設した
  9月ごろ 被告が分譲を開始。翌09年1月までに完売した
12年 3月から9月 本件土地の南側に位置する土地で造成工事が始まる
  9月ごろ 住民のクレームにより、本件土地の住宅が一様に南側へ向かって傾斜していることが発覚。後の調査でも徐々に進行していることが判明した
13年 9月 6戸の住民が被告を東京地方裁判所に提訴。14年3月に残る1戸の住民が訴訟へ参加
15年 6月 調停開始
16年 9月 1戸の住民と調停が成立。アンダーピニング工法による補修費に加え、200万円の解決金を支払う内容
17年 1月 調停委員が意見書を提出。裁判所は調停に代わる決定として、不同沈下の原因は本件土地における地盤改良が不十分だったためとして、被告に補修費や慰謝料100万円、弁護士費用100万円を支払うよう命じた。被告と4戸の住民が決定に従い、2戸の住民が異議を申し立てた
  3月 1審判決。東京地裁は被告に対し、アンダーピニング工法による補修費や慰謝料100万円、弁護士費用100万円を支払うよう命じた
被告は基礎工事前に柱状改良工事を実施していたが、不同沈下は起こった。調停委員は「不適切な基礎選定が原因」との意見書を裁判所に提出、判決にも反映された(資料:判決文に基づき日経アーキテクチュアが作成)