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傾斜地では擁壁トラブルが絶えず起こっている。分譲住宅の引き渡し後、宅地造成等規制法(宅造法)違反を指摘され、事業者が売買代金相当の損害賠償を命じられた裁判例を紹介する。(日経アーキテクチュア)

兵庫県宝塚市の傾斜地に立つ住宅で、既存擁壁の上に擁壁を新設する「増し積み」が問題となった。自治体が所有者を行政指導したところ、所有者は自分が購入した時点ですでに宅地造成等規制法(宅造法)に違反していたとして、自治体と販売代理店の不動産会社を訴えた
兵庫県宝塚市の傾斜地に立つ住宅で、既存擁壁の上に擁壁を新設する「増し積み」が問題となった。自治体が所有者を行政指導したところ、所有者は自分が購入した時点ですでに宅地造成等規制法(宅造法)に違反していたとして、自治体と販売代理店の不動産会社を訴えた
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 今回取り上げるのは、兵庫県宝塚市の傾斜地に立つ住宅を巡るトラブルだ。

 問題となったのは2008年に完成、同年に土地・建物込みで販売された分譲住宅。裁判の原告はこの住宅を購入した所有者だ。引き渡しからわずか2年後の10年2月、原告は宝塚市から、宅地についての行政指導を受けていた。

 宅地の下り斜面には、古くから存在する石積みのものを含め、複数の擁壁が存在していた。この中には、既存擁壁の上方へ増し積みした高さ約2mのコンクリート造擁壁、高さ約1mに達するコンクリートブロック造の擁壁があった。市は前者が宅地造成等規制法(宅造法)に適合せず、後者はそもそも擁壁の構造として不適切だと指摘、改善を求めたのだ。

 原告が行政指導を受けた時点で、増し積み擁壁には累積で高さ10mに達する部分があった。

 これらの擁壁を巡っては、実は行政指導の前から、原告と土地造成や住宅建築を手掛けた住宅会社A社との間でトラブルが起きていた。その原因がまさに、行政指導を受けた擁壁を含む一連の斜面だった。

 解決の道を求め、原告は11年、市と住宅の販売代理店(被告会社、A社と代表取締役および本店所在地を共通とする不動産会社)を相手取り、損害賠償を求めて大阪地方裁判所へ提訴した〔図1〕。

〔図1〕造成・新築を担当した住宅会社が設計方針をほごに
2007年 7月 住宅会社(被告会社の関連会社)A社が土地を取得
10月3日 A社が開発構想を宝塚市へ提出。市は高さ1m以上の崖を生じさせる造成が含まれていることから、宅地造成等規制法(宅造法)8条に基づく許可が必要だと指導した
10月18日 A社が市に対し、基礎を深く根入れするなどの設計方針を回答。市はその場合は宅造法許可は不要と判断した
11月 A社が戸建て住宅の確認申請を実施
08年 4月 建物が完成、検査済み証が交付される。市に回答した設計方針は実際には反映されていなかった。完成前の時点で、原告は被告会社との間で土地建物を約3800万円で購入する契約を締結しており、月末に引き渡しを受けた
08年
09年
5月から
11月
斜面地を駐車場として使うため、原告が高さ約2mのコンクリート造擁壁、高さ約1mのコンクリートブロック造擁壁を設置。これらはA社が宅造法違反の拡大を避け、中止していた工事だった。被告会社は売買契約において、この工事を中止したことを理由に120万円を値引きしていた
10年 2月 市は、上記の2つの擁壁が宅造法に反する「増し積み擁壁」に当たるなどとして、所有者である原告に行政指導を実施
11年 原告が被告会社と市を相手取り、約9300万円の損害賠償を求めて大阪地方裁判所へ提訴
18年 6月21日 大阪地裁は判決で市の賠償責任を否定した一方、被告会社に説明義務違反があったとして合計約4200万円を支払うよう命じた。控訴は行われず、判決は確定した
事件の経緯。問題の敷地はA社が土地を仕入れる前から危険性が指摘されていた場所だった。行政指導が行われたが、A社は市に回答した通りの対策をしなかった(資料:判決文を基に日経アーキテクチュアが作成)