全3902文字
PR

建築家の藤本壮介氏が設計した「白井屋ホテル」が、2020年12月に前橋市で開業した。衰退した市街地の価値を高めるため、建築とアートで再生を目指す。

利根川の旧河川の土手をイメージしてつくった、白井屋ホテルの新築棟「グリーンタワー」。人工の「緑の丘」にギャラリーやサウナの白い小屋が点在する。客室は丘の内部に埋め込んだ(写真:Shinya Kigure)
利根川の旧河川の土手をイメージしてつくった、白井屋ホテルの新築棟「グリーンタワー」。人工の「緑の丘」にギャラリーやサウナの白い小屋が点在する。客室は丘の内部に埋め込んだ(写真:Shinya Kigure)
[画像のクリックで拡大表示]

 前橋の市街地に突如出現した緑の丘。斜面の所々には四角い穴が開いており、丘の上には白い小屋が点在する。これがホテルだとすぐに分かる人は少ないかもしれない。

 飲食店が立ち並ぶ細い馬場川通りにできた緑の丘とは対照的に、1本南側を走る国道50号沿いには、ホテルのもう1つの建物がある。白い壁に現代アートをあしらった外観は、いやが上にも目に付く。この建物が1970年代にホテルに転換し、2008年に廃業した老舗旅館だったとは、誰も思いつかないほどの変わりようだ。

 廃業後に放置されていた建物の中は、まるで「エッシャーのだまし絵」の世界を再現したかのような立体迷路になっている〔写真1〕。驚きの吹き抜け空間が客人を迎えてくれる〔写真2〕。

〔写真1〕「だまし絵」のような吹き抜け空間
〔写真1〕「だまし絵」のような吹き抜け空間
白井屋ホテルの既存棟「ヘリテージタワー」に設けた、4層の吹き抜け。床や壁を解体し、1970年代に建て替えられたときのコンクリート躯体の柱や梁をむき出しにしたうえで、新たにらせん階段やブリッジを設けた(写真:Katsumasa Tanaka)
[画像のクリックで拡大表示]
〔写真2〕吹き抜けがアートやグリーンの受け皿に
〔写真2〕吹き抜けがアートやグリーンの受け皿に
吹き抜け1階のラウンジに置かれた大量の植栽。緑の回りにソファや椅子、テーブルを数多く配置した。躯体には光るパイプのアートが絡みつく(写真:Shinya Kigure)
[画像のクリックで拡大表示]

 かつて絹産業で栄えた前橋で、江戸時代から約300年続いた歴史を持つ老舗旅館「白井屋」の建物を買い取ったのは、田中仁氏だ。同氏は民間主導の再生プロジェクト「前橋モデル」を推進する、田中仁財団の代表理事を務める。約6年の工事を経て、「白井屋ホテル/SHIROIYA HOTEL」は20年末にオープンした。このホテルを目掛けて、開業直後から年末年始にかけて、建築やアート好きが次々と前橋を訪れた〔写真3〕。

〔写真3〕現代アートをあしらった既存棟
〔写真3〕現代アートをあしらった既存棟
既存棟は交通量が多い国道50号に面する。派手な現代アートが目を引く(写真:Shinya Kigure)
[画像のクリックで拡大表示]

 築45年の建物は当初、取り壊される計画だった。だが田中氏が残す道を選び、リノベーションに踏み切った。眼鏡大手ジンズホールディングスの代表取締役CEO(最高経営責任者)である田中氏は前橋出身〔写真4〕。私財を投じ、市街地の活性化に挑む。ホテルはその象徴的な場所だ。

〔写真4〕オーナーと設計者が二人三脚でホテル開発
〔写真4〕オーナーと設計者が二人三脚でホテル開発
白井屋ホテルのオーナーである田中仁氏(左)と、設計者の藤本壮介氏。客室数の多さにはこだわらない田中氏の英断で、藤本氏は大胆な吹き抜けを設計できた(写真:北山 宏一)
[画像のクリックで拡大表示]

 田中氏は白井屋ホテルの設計を、藤本壮介建築設計事務所(東京都江東区)の藤本壮介代表取締役に依頼した。藤本氏は過去に「JINS 渋谷店」や田中氏の身内の住宅を設計している。もっとも、藤本氏はホテルを設計したことがない。しかも改修案件で、プロジェクトの途中で新築棟の設計も追加になった。ホテルは、地下1階・地上4階建ての既存棟「ヘリテージタワー」と、利根川の旧河川の土手をイメージした地上5階建ての新築棟「グリーンタワー」から成る。