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 2020年1月3日、東京メトロ銀座線の新しい渋谷駅の運用が始まった。幹線道路の明治通りと駅前広場の上空の新駅舎は長さ110m。全体がアルミパネルとガラスに包まれている〔写真13〕。銀座線の高架橋をつくり直し、7本あった橋脚を3本に集約。架け直した鋼製桁の上に新しい駅舎を建てた。JR山手線をまたぎ、東急百貨店東横店西館3階にあった旧駅舎から東に約130m移動した。

〔写真1〕長さ110mの地下鉄高架駅
〔写真1〕長さ110mの地下鉄高架駅
手前の明治通りと、整備中の東口駅前広場の上空に架かる高架駅。上屋の長さは110m。駅舎の右に見えるのは旧駅が入る東急百貨店東横店西館。2020年3月31日で閉店し、渋谷スクランブルスクエア第2期(中央棟)に建て替えられる(写真:吉田 誠)
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〔写真2〕公道上の構台から架設
〔写真2〕公道上の構台から架設
45本のアーチは、明治通り上空に設けた工事用の構台から夜間に架設した。写真は北東から見た現場。アーチの架設が終盤を迎えた2019年3月に撮影(写真:吉田 誠)
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長手断面図
長手断面図
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〔写真3〕建築限界も確保しやすいM形アーチ
〔写真3〕建築限界も確保しやすいM形アーチ
円弧の頂部をへこませたM形アーチにしたことで、電車の建築限界も確保しやすい構造になった。アーチの足元はピン接合。長手方向の4カ所にブレースを設けている(写真:吉田 誠)
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 「1938年12月の開業以来、百貨店内に駅があったため大規模な改修ができなかった。渋谷駅周辺の再開発と連動した今回の移設によって、安全確保や混雑緩和、バリアフリー化、トイレの設置など、長年の課題を解消できる」。渋谷駅を整備した東京地下鉄鉄道本部工務部第二建築工事所長の三丸力氏はそう話す。

 旧駅は、乗降ホームが分かれた相対式2面2線の構造。2つのホームを合わせても幅7mしかなく、混雑が常態化していた。新駅はホームの両側に線路がある島式1面2線となり、ホーム幅は12mに広がった。白く塗装されたM形の鋼製アーチが2.5m間隔で45本並ぶ無柱の大空間だ。「東口駅前広場は空間ボリュームが小さい。普通の駅舎は四角い箱形で考えるが、跨道(ことう)橋も近接しているので、アーチ形状にしてボリュームを抑え、東口駅前広場に少しでも多く日が当たるようにした」。駅舎の設計を手掛けた内藤廣建築設計事務所(東京都千代田区)代表の内藤廣氏はそう説明する。

M形アーチで難題を克服

 アーチの形状が一般的な円弧ではなくM形になったのは、駅舎を取り巻く様々な条件を合理的に解ける構造の在り方を追求した結果だ。

 新駅舎は意外に複雑な形をしている。長さ110mの上屋の幅は、線路の線形の関係で、西から東に向けて25mから20mまですぼんでいく。

 断面も変則的だ。西から東に向けて、線路は下り勾配、屋根は上り勾配なので、上屋は西側ほど平たくなり、東側ほど膨らむ。線路の勾配に屋根が合っていないのは、将来、屋根上に歩道が整備されるためだ。旧駅があった東急百貨店東横店西館は今後、渋谷スクランブルスクエア第2期(中央棟)に建て替える。駅舎の屋根は、その中央棟と、東側の渋谷ヒカリエ(2012年完成)をつなぐ新しい歩行者動線となる〔写真47〕。

〔写真4〕屋根上に将来の歩道も用意
〔写真4〕屋根上に将来の歩道も用意
旧駅の乗車ホームから見る新駅舎の西端。M形アーチが最も平たくなる。アーチの幅は25m、ホーム床からの屋根の高さは4.5m。屋根の上には将来、整備される歩道「スカイウェイ」がすでに用意されている(写真:吉田 誠)
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〔写真5〕街と駅の視線が行き交う
〔写真5〕街と駅の視線が行き交う
「駅のホームと街は視覚的につながっていたほうがいい」(内藤氏)との考えから上屋の下半分をガラス張りとした(写真:吉田 誠)
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〔写真6〕風は通すが雨は入れず
〔写真6〕風は通すが雨は入れず
外装のアルミパネルは、雨が降り込まず、風は抜けるような隙間を設けて取り付けた(写真:吉田 誠)
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〔写真7〕街になじむ橋脚をデザイン
〔写真7〕街になじむ橋脚をデザイン
内藤氏がデザインしたコンクリート橋脚の足元に新設された東側の地上改札(写真:吉田 誠)
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 「断面形状が連続的に変化していく屋根に歩道の荷重がかかるという条件が、アーチ形状を決めるカギになった」。構造設計を担当したKAP代表の岡村仁氏はそう振り返る。

 歩道のレベルや荷重、電車の建築限界などを踏まえて解析すると、円弧状のアーチを成立させるのは難しかった。「いろいろと検討した末、円弧の頂部をへこませると、うまく力を処理できた」(岡村氏)。岡村氏が行き着いたM形アーチの案に、「頂部が張弦梁のような構造になり合理的だった。東京メトロのMにも通じて面白いと思った」と、内藤氏も賛同した。

 銀座線渋谷駅の工事は今後も続く。2020年東京五輪・パラリンピックまでに、ホームドアや仮設トイレなどを整備。その後も、東急百貨店東横店西館の建て替えやJR駅の再整備などと連携しながら本設の改札やトイレなどを設けていく予定だ。