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中空の構台から滑らせてアーチ架設

新駅をつくるのは、終日混雑する駅前空間の上空、しかも高架の営業路線上だった。厳しい条件下での45本のアーチ架設には、中空の構台を基地とするスライド工法を採用した。

 「10年ほど前の施工計画では、工程表を理解するのに丸3日間かかるほど複雑で難しい工事だったが、その後何度かの見直しがあり今回のような工法になった」。駅舎を設計した内藤氏はそう振り返る。

 新しい駅舎の工事は、高頻度で電車が発着する銀座線の高架線上につくるものだった。現場の足元の地上も、歩行者や車、路線バスで常に混雑しており、どこにも隙間はない。

 「東京都と協議して、都道である明治通りの上空に工事用の仮設構台を継続して設置できることを前提に設計に入った。施工では、構台で組んだアーチを所定位置までスライドさせる工法がふさわしいと判断した」。東京地下鉄の三丸氏はそう説明する。

 構台は2018年8月後半からひと月ほどかけて設置。高架橋を南北から挟むように2つの構台、さらに線路の上部にも中央構台を設けて、アーチの建て方工事に入った〔写真10〕。アーチの搬入や架設は営業を終えた深夜に実施。外装仕上げなどは電車を運行させながら構台上で進めた。

〔写真10〕中空の構台でアーチの建て方
〔写真10〕中空の構台でアーチの建て方
アーチの建て方工事は、明治通りの上空に線路を挟んで設けた2つ構台で進めた。構台で組んだアーチを順次、所定の位置まで滑らせるスライド工法を採用した(19年3月撮影)(写真:吉田 誠)
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 「いったんアーチを構台の外にスライドさせたら、電車が走る線路上空に出るので、それ以上の工事はできない。そのため、外装のアルミパネルやガラスもすべて構台上で取り付けてからスライドさせた」。東京地下鉄第二建築工事所建築第三課の宮坂伸平氏はそう説明する。基本的に3スパン4本のアーチをひと組みとして仕上げてスライドさせた〔図1写真11〕。

〔図1〕3スパン1組でアーチをスライド
➊ 線路の両側の構台と、線路上空の中央構台で、3つに分けて搬入させたパーツを溶接してM形アーチをつくった
➊ 線路の両側の構台と、線路上空の中央構台で、3つに分けて搬入させたパーツを溶接してM形アーチをつくった
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➋ 構台で組んだアーチを、まず表参道駅側(東側)にスライドさせた。固定滑車と動滑車を設けてウインチで引いた
➋ 構台で組んだアーチを、まず表参道駅側(東側)にスライドさせた。固定滑車と動滑車を設けてウインチで引いた
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➌ スライド後に空いたスペースで次のアーチを組んで西側にスライド。基本的に3スパンをひと組みとして架設
➌ スライド後に空いたスペースで次のアーチを組んで西側にスライド。基本的に3スパンをひと組みとして架設
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➍ 構台からスライドさせる作業を繰り返し、5カ月かけて45本のアーチを架設した
➍ 構台からスライドさせる作業を繰り返し、5カ月かけて45本のアーチを架設した
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(資料:東急建設)
〔写真11〕構台上で外装材も取り付け
〔写真11〕構台上で外装材も取り付け
スライドする前に、アーチに外装パネルやガラスも取り付けた。仕上げ作業は電車が走る線路上の中央構台で昼間に実施して工期短縮を図った(写真:吉田 誠)
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形は違っても同じレールで架設

 ところで、幅や高さがすべて違う45本のアーチをどうスライドさせたのか。その方法を、施工JVの所長を務めた東急建設の岡本哲氏はこう説明する。「既存線路の両側に2本のレールを平行に敷き、それぞれに鉄骨のスライド支柱を立て、その支柱でアーチをつかむように支えスライドさせた」

 つまり、アーチが浮いたような状態でスライドさせるため、一つひとつの形状が違っても同じレール上を使って施工できる。所定の位置までスライドさせたアーチは、ジャッキダウンした後、足元に用意しておいた鋳物の台座に溶接した。しかし、その作業は、地上ではなく、橋桁上の建築工事ならではの難しさを伴った。

 橋桁は通常、最終的な荷重がかかったとき設計した通りの高さに納まるよう施工する。つまり、荷重がかかっていない段階では、わずかに上向きに反らせる「キャンバー」を付けておく。しかし、アーチは最終形で製作するので、架設時に双方にズレが生じる。「そこで、桁の現状がどうであれ、最終的な位置にアーチを架けるために、足元にライナープレートをかませるなどして絶対的な高さを確保して溶接している」と、岡本氏は説明する。

 アーチの建て方は18年11月から5カ月かけて実施。鉄骨の重量は約714トン、仕上げ材などを含めると駅舎の総重量は約1500トンに上る。

取材に応じてくれた6人。左から順に、建設JVの東急建設の垣永正利氏と岡本哲氏、東京地下鉄第二建築工事所の宮坂伸平氏と同所長の三丸力氏、同社建築設計第一課の山根好数氏と杣川真美氏(写真:日経アーキテクチュア)
取材に応じてくれた6人。左から順に、建設JVの東急建設の垣永正利氏と岡本哲氏、東京地下鉄第二建築工事所の宮坂伸平氏と同所長の三丸力氏、同社建築設計第一課の山根好数氏と杣川真美氏(写真:日経アーキテクチュア)
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