「垂れ下がる巨大な鉄板屋根」が施工中から注目されていたKAIT広場が、神奈川工科大学に完成した。屋根に合わせてカーブを描く床や、屋根に開けられた59の穴が、学生たちをかつてない体験へと誘う。
2次元の写真でこの施設を伝えるのには限界がある。動画もしかり。ここで感じる光の移ろい、風、温度、音、そして視界の裏側へと広がる空間の連なりを理解するには、実際にこの場に身を置くしかない。
神奈川工科大学に2020年末、「KAIT広場」が完成した〔写真1〕。場所は09年度の日本建築学会賞作品賞を受賞した「KAIT工房」の東側。設計者はKAIT工房と同じく、石上純也建築設計事務所(東京都港区)の石上純也氏だ。
「学生の刺激になる施設を設計してほしい」という依頼を受けて設計に着手したのが08年(「発注者の声」参照)。完成まで実に12年を要した。技術的な難しさもあったが、具体的な機能の要求がなかったこともプロジェクトが長引いた一因だ。「この大学に必要なものは何かをかなり長い時間、考えた。学内には教育の施設はそろっているが、学生たちがとどまる場が少ない。学生が自然と共にたたずむ、広場のような施設が必要だと考えた」(石上氏)
久保田 昌彦氏 学校法人幾徳学園 神奈川工科大学 経営管理本部管財担当部長
刺激のない建築に学生は集まらない

石上純也さんとは、2008年に完成したKAIT工房からの付き合いになる。その竣工式の際に、学園の理事長が「学生の刺激になるような建築をまたつくってもらいたい」と石上さんに話したのがプロジェクトの始まりだ。
検討の初期段階ではキャンパス内を蛇のように延びる施設の案もあった。敷地がKAIT工房東側のテニスコート跡地に決まり、だんだんと今の形にまとまっていった。
発信力の大きいKAIT工房
石上さんなので時間がかかるとは思っていたが、まさかこんなにかかるとは思わなかった。だが、早く決めてくださいと急がせることはしないように努めた。石上さんが納得しないものではつくっても意味がないからだ。
当校には建築学科はない。しかし、KAIT工房の影響力は大きく、これによって当校を知ったという学生もいるし、世界の教育関係者にも知られている。理事長の言うように、中途半端なものでは学生たちに刺激を与えることはできず、刺激のない箱をつくっても学生たちは集まらない。
今はコロナで学生たちにのびのびと使わせてあげることができず、心苦しい。4月以降は本格的に使用を開始し、いずれ外部の方にも見学の機会をつくっていくつもりだ。(談)