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構想発表から約40年。2022年2月2日、大阪市北区で「大阪中之島美術館」が開館した。5階建ての内部をくりぬいたダイナミックな立体の「パッサージュ」が来館者を圧倒する。

堂島川と土佐堀川の間に広がる中州に、大阪中之島美術館は誕生した。中之島のほぼ中央に当たり、市の中心街の南北と再開発が進む中之島の東西をつなぐ結節点に位置する。設計者の遠藤克彦氏は、この美術館が「東西南北の回遊動線が交わる『道』の上に立つ」と考えた。歩行空間に、平面が正方形の建物が載るプランを導いた(写真:車田 保)
堂島川と土佐堀川の間に広がる中州に、大阪中之島美術館は誕生した。中之島のほぼ中央に当たり、市の中心街の南北と再開発が進む中之島の東西をつなぐ結節点に位置する。設計者の遠藤克彦氏は、この美術館が「東西南北の回遊動線が交わる『道』の上に立つ」と考えた。歩行空間に、平面が正方形の建物が載るプランを導いた(写真:車田 保)
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 大阪中之島美術館がJR大阪駅の南西で開館した。コロナ禍でも平日に約2000人が訪れる人気ぶりだ。

 建物の特徴は、黒いプレキャストコンクリート(PCa)パネルに囲まれた直方体の外観と、内部を立体的にくりぬいた「パッサージュ」(遊歩空間)である〔写真1〕。建物の3~5階を黒い外壁で囲み、チケット売り場や店舗などがある1~2階はガラス張りにした。だから黒い箱が浮いているように見える。高さは約36.9mある。

〔写真1〕5層をつなぐ吹き抜けのパッサージュ
〔写真1〕5層をつなぐ吹き抜けのパッサージュ
4階から階下を見る。パッサージュの吹き抜けは1~5階をつなぎ、トップライトまで続く。吹き抜けの高さは約30m。チケット売り場がある2階と展示室がある4階とをつなぐ黒い直通エスカレーターが交差する(写真:車田 保)
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 建物には四角形やL字形の大開口を四方に設けた〔写真2〕。開口は街と美術館をつなぐ象徴である。美術館の東側には歩行者デッキを設け、道路をまたぐ2階レベルで隣の建物とつなげた。西側にもデッキを準備してある。北側には芝生広場を設け、目の前に堂島川を望む。

〔写真2〕四方の大開口が街と美術館を接続
〔写真2〕四方の大開口が街と美術館を接続
5階の大きな窓から、北側を流れる堂島川と対岸の街並みを望む。人垣ができる展望ロビーの大開口は、街に開いた美術館の象徴的な存在だ。耐風圧の鉄骨マリオンがアクセントになっている。大開口の位置や形はパッサージュの通し方で決めた(写真:車田 保)
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 設計者は、2017年2月に公募型設計競技(コンペ)で最優秀案に選ばれた遠藤克彦建築研究所(東京都港区)。代表取締役である遠藤克彦氏は計画地を視察したとき、この場所が中之島のほぼ中央で、かつ市街地の回遊動線の結節点になることに気づいた。「東西と南北の『道(パス)』が交わる上に、美術館が載っているイメージが浮かんだ」

 それをコンペの設計要件だったパッサージュにつなげた。2階のパッサージュは道をつくったに等しい。四方に出入り口がある人流の交差点だ。遠藤氏は「この建物には正面がない」と説明する。1辺が約63mある正方形の平面プランで開口は四方に設け、結節点であることを強調した。

 パッサージュは高さが約30mの吹き抜けを介して、垂直方向にも延びる。1~5階をつなぐパッサージュは約3400m2あり、遠藤氏は建物の「背骨」に例えた。この提案が審査員に評価され、当時40代だった遠藤氏は総施設整備費が約156億円に上るプロジェクトの設計を任された。

 もう1つ評価されたのが浸水対策である。中州に立つ美術館は、開館時点で6000点を超えるコレクションを抱える〔写真34〕。作品を水害から守らなければならない。

〔写真3〕展示室の間仕切りは可動式
〔写真3〕展示室の間仕切りは可動式
4階展示室のホワイトキューブは、天井高が4m。間仕切りは可動式だ。中央の作品は開館記念展覧会のキービジュアルになった、洋画家・佐伯祐三の「郵便配達夫」。4階には黒い展示室もある(写真:日経クロステック)
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〔写真4〕5階の展示室は天井高6m
〔写真4〕5階の展示室は天井高6m
5階には3つの展示室がある。ひとつながりにも別々にも使える。3室合計で約1700m2、天井高6m。布を垂れ下げ、様々なデザインの椅子のシルエットを映す演出が見られた(写真:日経クロステック)
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 「公共の美術館は街に開く必要があるが、浸水対策は反対に閉じる発想だ。エントランスがある2階も十分高い位置にあるが、作品は物理的にさらに高い3~5階で保管・展示する分かりやすいプランにした」(遠藤氏)。黒い箱は作品を光からも守る。