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アートギャラリーに住宅が付いたようなユニークな建物が完成した。北に向かって低くなるのこぎり屋根の開口から、柔らかい光を取り込む。

千葉街道(国道14号)沿いに完成した、黒い瓦の外装材やルーバーで覆われた地上3階建てのアートギャラリー「Kanda&Oliveira」。建物の奥は、建て主企業の代表取締役の自邸になっている(写真:吉田 誠)
千葉街道(国道14号)沿いに完成した、黒い瓦の外装材やルーバーで覆われた地上3階建てのアートギャラリー「Kanda&Oliveira」。建物の奥は、建て主企業の代表取締役の自邸になっている(写真:吉田 誠)
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 千葉県船橋市の千葉街道沿いに2022年2月、黒い瓦で覆われた地上3階建ての建物が現れた。アートギャラリー「Kanda&Oliveira(オリヴェラ)」だ。

 ギャラリーが立地するとは思えない場所で開業し、異彩を放っている。同年2月23日からは、オープニングの展覧会「NISHIJI COLLECTION(西治コレクション)」が開かれた。

 発注者は、アートをコレクションしている不動産会社の西治(千葉県船橋市)。設計は小室舞氏が代表を務めるKOMPAS(東京都中央区)が手掛けた。30代の小室氏は、スイスのヘルツォーク・アンド・ド・ムーロン(H&deM)に約9年間勤めた後、18年に香港と東京でKOMPASを設立した。H&deM時代には、香港で話題の美術館「M+」の設計に関わった。

 西治プロジェクトは、小室氏が独立して最初に設計を始めた新築プロジェクトだ。施工は青木工務店(東京都目黒区)が手掛けた。

 建物は南北に細長い敷地に立つ。西治の代表取締役である神田雄亮氏が育った実家の土地だ。南側の前面道路からは分かりにくいが、北に向かってのこぎり屋根が低くなっていく〔写真1〕。のこぎり屋根のハイサイドライトは真北を向き、自然光が緩やかに差し込む。

〔写真1〕真北に開いたハイサイドライト
〔写真1〕真北に開いたハイサイドライト
自然光の下でアートを鑑賞できるように、北向きに開口を設けた。自宅の窓も北向きだ。7つの屋根の高さと勾配はそれぞれ異なる(写真:吉田 誠)
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 この形はどうして生まれたのか。小室氏が建て主に示したコンセプトダイアグラムが分かりやすい〔図1〕。「アートを見るなら北からの自然光で」という共通認識が、建て主と小室氏の間にあった。そしてこの場所にはもともと蔵があり、アートを守る「蔵」というコンセプトも生まれた。

〔図1〕自然光が入る屋根とアートを守る蔵
〔図1〕自然光が入る屋根とアートを守る蔵
設計者の小室氏が描いたコンセプトダイアグラム。のこぎり屋根から北向きの間接光を取り込みつつ、アートを展示・保管できる蔵のような建物を想定した。前面道路側は街に開き、一番奥の静かな場所に住宅を配置した(資料:KOMPASの資料を基に日経アーキテクチュアが作成)
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(写真:日経クロステック)
(写真:日経クロステック)
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 北側自然光と蔵を足し合わせ、「南から北に向かって低くなるのこぎり屋根を架けた蔵の連なりというアイデアに行き着いた」(小室氏)。建物を黒い瓦で覆ったのは、蔵の瓦屋根の記憶を意匠に生かしたからだ。

 一方で、ハイサイドライトなど至る所に木材を使っている。建物は1階が鉄筋コンクリート(RC)造、2~3階が木造の混構造だ〔図2〕。1階は石垣のような洗い出しコンクリート躯体で、敷地に沿うようにつくった。その上に架けるのこぎり屋根を真北に開くため、「RCにかぶせるように、2~3階の木造部分を真北にねじって重ねた」(小室氏)。こうして3階の一番大きな展示室は、のこぎり屋根の北向きハイサイドライトから自然光を最大限取り込める空間になった〔写真2〕。

〔図2〕RC造と木造の混構造で2~3階を北向きにねじる
〔図2〕RC造と木造の混構造で2~3階を北向きにねじる
1階は鉄筋コンクリート(RC)造、2~3階は木造の混構造を採用した。北向きの開口にはしご状のフィーレンデールトラス(VT、濃い茶色の部分)を取り入れ、木造で約8.2mのスパンを飛ばした(資料:KOMPAS)
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〔写真2〕ハイサイドライトから自然光が差し込む展示室
〔写真2〕ハイサイドライトから自然光が差し込む展示室
3階の展示室(ギャラリー2)はのこぎり屋根を持ち、北向きのハイサイドライトから自然光を最大限取り込む。写真は22年2~3月に開催したオープニング展覧会の様子。展示室は昼間、とても明るい(写真:吉田 誠)
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