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鉄筋コンクリート(RC)柱とCLT(直交集成板)を組み合わせる新工法を採用したオフィスビルが登場した。設計を手掛けた坂茂氏は、「非常に優れた構造性能であることを確認できた」と振り返る。

名古屋市中区丸の内2丁目に完成したオフィスビル「タマディック名古屋ビル」。夜になると、CLTで覆われた柱や天井が外からよく見える(写真:車田 保)
名古屋市中区丸の内2丁目に完成したオフィスビル「タマディック名古屋ビル」。夜になると、CLTで覆われた柱や天井が外からよく見える(写真:車田 保)
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 RC柱とCLTを組み合わせた世界初の木質構造を持つオフィスビル──。自動車や航空・宇宙関連などの製品を開発するタマディック(東京都新宿区)の新拠点「タマディック名古屋ビル」だ〔写真1〕。地下1階・地上8階建てで、2022年1月から業務を開始した〔図1〕。

〔写真1〕木質の柱が目を引くオフィスビル
〔写真1〕木質の柱が目を引くオフィスビル
2022年1月に業務を開始した、ガラス張りのタマディック名古屋ビル。建物外周に木の柱がグリッド状に並び、木造のビルに見える。だが構造は鉄筋コンクリート(RC)造、一部木造・鉄骨(S)造・鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)造の混構造(写真:車田 保)
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〔図1〕世界初の「木質構造」を採用
〔図1〕世界初の「木質構造」を採用
アイソメ図。RC造の柱とCLTを組み合わせた、世界初の木質構造。建物西面の端に、らせん状の非常階段を設けた(資料:坂茂建築設計)
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 木造のように見えるビルを設計したのは、坂茂建築設計(東京都世田谷区)である〔写真2〕。建物外周を囲む「外柱」やフロア中央に立つ太い「中柱」はどれも、コンクリート柱をCLTで覆っている〔写真3〕。

〔写真2〕木造空間のようなオフィス内部
〔写真2〕木造空間のようなオフィス内部
2階と3階の事務室フロアをつなぐ室内階段からの見下ろし。CLTを現しにしたオフィス空間は、木造のような温かみがある(写真:車田 保)
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〔写真3〕エントランスに太い木質柱が並ぶ
〔写真3〕エントランスに太い木質柱が並ぶ
フロア内に立つ「中柱」(写真右手)は、CLTを含む柱断面の寸法が上階に行くほど細くなる。エントランスの中柱が一番太い。建物外周の「外柱」(写真左手)は、同寸法が各階とも同じ(写真:車田 保)
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 そういうと、単に仕上げにCLTを使っただけと思うかもしれない。だがそうではなく、CLTに3つの役割を持たせたのが画期的だ〔図23〕。

〔図2〕中柱の構造平面は下階と上階で異なる
〔図2〕中柱の構造平面は下階と上階で異なる
CLTロの字柱(4階中柱)平面図 中柱の構造平面詳細図。1~4階の中柱には、補強材の「頬杖(CLTハンチ)」が付く(資料:坂茂建築設計)
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CLTロの字柱(6~7階中柱、外柱)平面図 5階以上の中柱には頬杖がない。下階の柱断面寸法は上階よりも大きい。6~7階の中柱と全ての外柱は柱断面寸法が同じ(資料:坂茂建築設計)
CLTロの字柱(6~7階中柱、外柱)平面図 5階以上の中柱には頬杖がない。下階の柱断面寸法は上階よりも大きい。6~7階の中柱と全ての外柱は柱断面寸法が同じ(資料:坂茂建築設計)
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〔図3〕鉄筋かごをCLTで包み、コンクリート打設
〔図3〕鉄筋かごをCLTで包み、コンクリート打設
中柱や外柱は、RCをCLTで覆ったもの。鉄筋かごをCLTの型枠で囲み、コンクリートを流して打設する。そのままCLTが仕上げ材になる。地震の水平力に抵抗する構造材にもなっている(資料:坂茂建築設計の資料を基に日経アーキテクチュアが作成)
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 1つ目は、柱のコンクリートを打設する際の「型枠」としてCLTを使うこと〔写真4〕。2つ目は、型枠のCLTがそのまま柱の「仕上げ材」になること。そして3つ目は、しなやかな木材のCLTとRCを組み合わせた柱が、地震のときに水平力に抵抗する「構造材」として働くことだ。

〔写真4〕組み立てたCLTを鉄筋かごにかぶせて施工
〔写真4〕組み立てたCLTを鉄筋かごにかぶせて施工
施工では設置済みの鉄筋かごを包むように、あらかじめ組み上げた頬杖付きのCLTを上からかぶせる(左写真、右上)。床(天井)もCLTとRC造の組み合わせ(右下)(写真:坂茂建築設計)
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 坂茂建築設計の坂茂代表は、「本来なら木造で高層ビルをつくりたいが、敷地は防火地域に当たり、耐火建築物しか認められない」と前置きしつつ、「CLTで『ロの字』形の断面をつくって鉄筋を囲み、CLTを型枠にしてコンクリートを打設。RCを内蔵したハイブリッド断面とした耐火構造だ」と説明する。

 RC断面が建物の荷重を支え、「火災のときは耐火性能があるRC構造が建物の崩壊を防ぐ」(坂氏)。今回の構造はRC造、一部木造・鉄骨(S)造・鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)造である。構造設計は陶器浩一氏、高橋俊也構造建築研究所(静岡県磐田市)、飯島建築事務所(川崎市)が担当した。施工は大林組が手掛けた。

 坂茂建築設計は実物大の柱の試験体を製作し、性能確認試験をした。その結果、断面形状やCLTの板厚によって、一般的な配筋だけのRC断面に比べて最大耐力が約3.8~5倍、剛性が約1.3~1.6倍高まることが分かったという。

 外柱はCLTを含む断面寸法が600mm×600mm、CLTの板厚は90mmで各階共通である。一方、中柱は同断面寸法が1100mm×1100mmから600mm×600mmまで、上階に行くほど細くなる。CLTの板厚は1階が150mm、それ以外は90mm。1~4階の中柱には補強材の「頬杖(ほおづえ)」が付く。

 各階の床も、型枠と仕上げ材を兼ねたCLTを用いてコンクリートを打設する。通常はRC断面で床を支えるが、RCとCLTの組み合わせで床の振動やたわみを抑える。剛性が高い床構造になった。床のCLTの板厚は120mmで、全階同じだ。