2階建てながら全用途が外部と直接つながる公共複合施設が2020年4月、熊本県天草市に誕生した。ランドスケープと一体の建築を目指して行き着いたのが、中央の庭を細長い平面で包み込む構成だ。
熊本県天草市に2020年4月、開館した「天草市複合施設『ここらす』」は、図書館と保健所、公民館といった3つの用途が複合した公共施設だ。市内5カ所に分散していた機能を集約した。湾曲する細長い平面形状の建物が敷地南側の「おおらかな庭」を包み込む配置が特徴だ〔写真1〕。
設計者は、公募型プロポーザルで17年に最優秀者に選ばれた日建設計。同社設計部門アソシエイトアーキテクトの田中渉氏は、敷地や周囲の自然を生かすには、庭と建築が一体になった計画にすべきだと判断した。
「敷地は中学校跡地で、かなり広くて起伏も多い。海からの風が通り抜け、南西方向には、観光名所の十万山が見える。そこで、敷地の南側に大きな庭を設けて、光や風、眺望を取り込むために、複数の屋根で構成する断面を提案した」(田中氏)
建物の1階には、市の健康増進課や検診室のほか、本渡地区公民館や市民活動支援センターなどが入る。2階は、地元の規格製材を使った木造屋根が架かる中央図書館だ。
一般利用者が使う入り口は、1階に2カ所。駐車場からホールへ入る北側と「おおらかな庭」に面した南側に配置した。2階は南のデッキ側に3カ所設けているが、運用上、通常、使用できるのは階段の近くだけだ。
図書館は、敷地の東南部に配置した緩い勾配の階段とデッキを経由して、2階にありながら庭から直接アプローチできる。「庭の一部が盛り上がって図書館レベルになるのを意図した」(田中氏)立体的なランドスケープだ。「ステップガーデン」と呼ばれる階段は、避難路や耐震要素の役割も担っている〔写真2~4〕。