宮城県山元町に、東日本大震災の復興の節目となる新しい役場が完成。この5月から業務を開始した。設計者は、町民や職員と議論を重ね、建物に裏表がなく柔軟に運用できる一室の大空間をつくった。
太平洋に面した宮城県南部の山元町に新庁舎が完成し、5月7日から業務を開始した。東日本大震災で損傷した旧庁舎を解体して以来、プレハブ庁舎を使い続けてきた。「住民の生活再建に向けた震災復興がほぼ終わり、最後に役場を建て替えた」。山元町企画財政課企画班班長の佐藤仁氏はそう説明する。
高台に立つ庁舎の正面からは、整備されたばかりの道路が、段丘の切り通しを抜けて東の低地へと延びている〔写真1〕。町の新しい骨格だ。道路を下った先には新しい市街地が広がり、津波の被害を受けて1kmほど内陸に移設されたJR常磐線の山下駅に行き着く。
「新市街地側から見たとき、切り通しの隅から少し顔を出すような存在にしようと思った」。そう話すのは、庁舎の設計を手掛けたシーラカンスアンドアソシエイツ(CAt、東京都渋谷区)パートナーの赤松佳珠子氏。同社は、2015年に山元町が実施した公募型プロポーザルで選ばれた。