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土を掘り、その穴にコンクリートを打設する。さらに躯体を掘り出し、ガラスをはめる──。石上純也氏の新作は、これまでの「透明で洗練された」印象から程遠い、「重くてゴツゴツした」建築だ。

敷地南側から見た全景。平屋の建物が、地面を掘り込んだ中に立つ。住宅街に位置するが、前面道路は西(写真左)側の擁壁の下にあるので周りからは建物が見えない。擁壁に上がると驚くものの、景観上の違和感はない。外構の最も低い部分は、擁壁の排水口よりも高く、ポンプアップしなくとも雨水は排出される。この敷地でしかできない建築だ(写真:吉田 誠)
敷地南側から見た全景。平屋の建物が、地面を掘り込んだ中に立つ。住宅街に位置するが、前面道路は西(写真左)側の擁壁の下にあるので周りからは建物が見えない。擁壁に上がると驚くものの、景観上の違和感はない。外構の最も低い部分は、擁壁の排水口よりも高く、ポンプアップしなくとも雨水は排出される。この敷地でしかできない建築だ(写真:吉田 誠)
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 一般の人が現代建築を縁遠く感じる理由の1つは、「つくるプロセスが想像できない」からだろう。超高層ビルはその最たるものだ。しかし、ここを訪れた人は、全体を一望するなりこう思う。「一体、どうやってこれをつくったの?」〔写真1

〔写真1〕強烈な異質さと自然さが共存
〔写真1〕強烈な異質さと自然さが共存
住宅とレストランの間にある中庭。強烈な異質さを放ちながらどこか自然でもあり、何とも不思議な見え方だ。屋根は躯体の上に防水用浸透性コンクリート改質材仕上げ。屋根の雨水は中庭の1カ所に集中して落ちるように微妙な傾斜をつけた(写真:吉田 誠)
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 人間の好奇心の奥深くに訴えかけてくるこの建築は、山口県宇部市に2022年春に完成した店舗併用住宅だ。石上純也氏(石上純也建築設計事務所代表)が、友人のフレンチレストラン店主の依頼で設計した。

 建築関係者の間では、建設段階から模型写真や施工写真が話題になっていた。それでも、実物を前にすると「えっ」と目を疑う。

 まず、外観が見えない。建物は鉄筋コンクリート造、地上1階建て、延べ面積200m2弱。「地上1階」といっても、前面道路から擁壁によって1階分ほど高くなった敷地に、掘り込まれて立っている。だから道路からは全く見えない。擁壁に上がり、アメーバのような白い屋根面を見て目を丸くする。

 建物本体が周囲の斜面と同じ土色であることにも驚く。仕上げ表では「コンクリート打ち放し」のはずだが、見た目はどう見ても土だ。床のレベルからだと、地中から土の塊が生え出たようにも見える〔写真2〕。

〔写真2〕現場を見て“土仕上げ”に変更
〔写真2〕現場を見て“土仕上げ”に変更
敷地南側からレストランに下りるアプローチ。土をスコップで掘った凹凸がそのまま形に現れ、表面には土が付着する。設計者の石上純也氏は、当初、土を高圧洗浄するつもりだったが、現場を見て土を残す仕上げに変えた(写真:吉田 誠)
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