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コンクリート打ち放しを全く使わずとも、安藤忠雄氏初期の“迷宮的空間”を思わせる建築だ。安藤氏寄贈による「こども本の森」第2弾には、安藤建築の原点が浮かび上がって見える。

閲覧室Cをギャラリー(空中廊下)から見下ろす。大黒柱を中心に円弧状の大きな書棚が取り巻く。子どもの手の届かない高さに飾られた本は、必ず低い位置に同じ本がある(写真:吉田 誠)
閲覧室Cをギャラリー(空中廊下)から見下ろす。大黒柱を中心に円弧状の大きな書棚が取り巻く。子どもの手の届かない高さに飾られた本は、必ず低い位置に同じ本がある(写真:吉田 誠)
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 この施設を見て、安藤忠雄氏のこんな言葉を思い出した。1992年の春、日経アーキテクチュア記者として編集長インタビューに同行した際に聞いた言葉だ。「(プロジェクトが)もう少し大きくなっていったら、今度はだんだんと小さくしていきたい。最後はやっぱり、住吉の長屋のような、あるいは茶室のような小さなものに戻りたい──」

 『遠野物語』(柳田国男著)で知られる岩手県遠野市に2021年7月25日、「こども本の森 遠野」が開館した〔写真1〕。遠野市が所有する築約120年の木造建築(旧呉服店)を、安藤忠雄氏が自費で再生し、市に寄贈したものだ。木造、地上2階建て、延べ面積500m2弱。1年前に大阪・中之島に開館した「こども本の森 中之島」(日経アーキテクチュア20年8月27日号掲載)に続く寄贈施設だ。

〔写真1〕既存建物は明治中期の呉服店
〔写真1〕既存建物は明治中期の呉服店
前面道路と平行に延びる北側外観。明治中期に建てられた「三田屋」という呉服店の木造建築の部材の一部を生かして新築した。通り沿いには同じように縦桟が印象的な木造建築がある。建具類は元のままではないが、イメージを継承した(写真:吉田 誠)
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 11年の東日本大震災後、復興構想会議の議長代理を務めた安藤氏は、大阪のこども本の森の計画を進めるなかで、「東北地域にもこうした施設を実現したい」と考えるようになった。19年8月、講演会を兼ねて遠野市を訪れた安藤氏が、元の木造建築を見て、寄贈の話がまとまった。

 安藤氏は語る。「最初は民家を改修するようなイメージだったが、この建物を使ってほしいという市長やまちの人の熱意に応えたいと思った」。設計は、既存建物の活用検討に関わっていたカクタ設計(遠野市)の角田直樹代表と共に進めた。計画開始からわずか2年でのスピード開館だ。