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書棚が階段状に続く巨大な閲覧空間。ハイサイドライトの光が格子の架構を優しく照らしていた。コーヒー片手に本を読んでも、会話してくつろいでもいい。気張らない日常使いを目指した図書館が完成した。

段状に並ぶ書棚と閲覧席で構成した大閲覧空間。書棚の上に載せた配架の分野を示すサインは、本の目次のようなイメージだという(写真:生田 将人)
段状に並ぶ書棚と閲覧席で構成した大閲覧空間。書棚の上に載せた配架の分野を示すサインは、本の目次のようなイメージだという(写真:生田 将人)
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 一歩入ると、高さ約15mの大閲覧空間に圧倒された。円形劇場のように書棚が天井近くまで階段状に立ち並び、その間をゆるやかなスロープがはう。1階から空間を見上げると、まるで約7万冊の本たちが一斉に語りかけてくるような錯覚に陥るほど、好奇心が刺激される。家族連れや若いカップルなど多いときは1日5000人以上が訪れ、「図書館に通うために移住したい」という人もいるという。

 金沢駅から約5kmの閑静な住宅街に、石川県立図書館は立つ。もともと市内の他の場所にあったが、金沢大学工学部跡地の一部へ移転・新築し、2022年7月16日に開業した。

 建物は地下1階・地上4階建て。2階以上のファサードは湾曲した壁とスリット状のガラス窓で構成し、ページをめくった本を思わせる〔写真1〕。

〔写真1〕緑と広場を入れ子に配置
〔写真1〕緑と広場を入れ子に配置
南西から見下ろした外観。2階以上のファサードは湾曲した外壁とガラスで構成した。建物は東西南北からアプローチできるようにしている。敷地全体では外から内へ順に、外周の緑、駐車場、林の緑、外部広場と入れ子型の配置計画とした。通りを隔てた場所で、金沢美術工芸大学の新キャンパスが建設中だ(写真:生田 将人)
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 書庫収蔵能力は約200万冊、開架冊数は最大約30万冊に上る。閉架式書庫を地下1階に集約し、地上は1、2階の南東側に「文化交流エリア」、その他を「閲覧エリア」として分けた。先述の大閲覧空間は閲覧エリアの一部に当たる〔写真23〕。

〔写真2〕楕円形の大空間にブリッジを渡す
〔写真2〕楕円形の大空間にブリッジを渡す
大閲覧空間を上から眺める。段状書架が並ぶ半円状の空間を向かい合せに配置し、全体を楕円形としている。書棚の裏には勉強や仕事ができるデスク席やソファ席がある。3階では中央にブリッジを渡した(写真:生田 将人)
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〔写真3〕ゆるやかなスロープで書棚から書棚へ移動
〔写真3〕ゆるやかなスロープで書棚から書棚へ移動
あらゆる人が書棚にアクセスでき、歩き回りたくなるように書棚の間にスロープを設けた(写真:生田 将人)
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従来の“型”を破る

 「従来の図書館だと、床は平らでないといけない、吹き抜けはいけないなどの設計ルールがある。石川県立図書館では、それではない新しい“型”をつくりたかった」。設計を担当した環境デザイン研究所(東京都港区)の仙田満会長はそう話す。

 仙田氏は国際教養大学図書館棟(秋田市、08年竣工)でも「ブックコロシアム」と呼ぶ劇場型の図書空間を設計。数々の建築賞を受賞し、手応えを感じていた。

 人々の意欲を喚起する空間として仙田氏が提唱してきたのが「遊環構造」の理論だ。「条件の1つにめまい体験がある。それは肉体的、精神的、一時的なパニック状態を楽しむものとされるが、多くの人との感情共有や一体感を持つ体験も含まれる。図書館にも、そうした空間があるといいと考えた」(仙田氏)。さらに書棚にアクセスしやすく、かつ歩き回りたくなるスロープを巡らせることで、ブックコロシアムの発展形を目指した。